第7章 俺の好きなひと。
───そう思い至った矢先だった。
"それ"が唐突にやってきたのは。
「班長、また残業ですか?」
「そういう南もな。お互い様だ」
ある夜の科学班の研究室。
其処に残っているのは、俺と南だけ。
こんなふうに残業で二人だけになるなんて、随分と久しぶりな気がする。
「コーヒー淹れますけど、飲みます?」
「ああ、頼む」
深夜とも取れる時間帯に、伸びをしながら給仕セットに向かう南。
暫くして香り立つコーヒーが入ったマグカップを両手にやってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとさん」
コーヒーより炭酸飲料の方が好きだが、残業となればやはりカフェインは手放せない。
マグカップを受け取れば南の目が俺の手元に向く。
数字が羅列した書類を覗き込んで、その顔を顰めた。
「うわー…ちんぷんかんぷん…」
「南の分野じゃないからな、こっちは」
「見ているだけで、眠くなりそうです」
残業にはなっているが、実際はそう追われる仕事でもない。
お互いに他愛もないことを話しながら、ゆったりとした空気で仕事を進める。
なんだかその時間が、酷く貴重に思えた。