第7章 俺の好きなひと。
「ん……は、んちょ…」
「!」
寝言なのか、不意に南の口から漏れた言葉に驚く。
班長って…俺のこと、だよな…。
「書類…ダメ、です…私の…」
意味のわからない言葉をむにゃむにゃと呟く南は、どうやら夢の中までも仕事に追われているらしい。
仕事熱心な南らしいと言うか。
そんな姿に、その場の空気が緩む。
南の顔を半ば隠していた散らばった前髪を、そっと指先で横に流す。
はっきりと露わになった寝顔に、鼓動が少し早くなった気がした。
「…すー…」
硬い机に突っ伏して、熟睡してしまっている南。
いつもだったら叩き起こして部屋に戻れと言うが、なんだかそんな気分になれなかった。
代わりに着ていた白衣を南の体にかけて、自分のデスクに戻る。
研究室には俺と南の二人だけ。
その空気がなんだか妙に心地良くて、ラビのちょっかいで南に対してぎくしゃくしていた自分が馬鹿らしくなった。
南は俺の身内じゃないが、大事な部下の一人だ。
それは、はっきりと言える。
科学班では稀な女性職員だから、少し他の部下と思いの形が違うだけだったんだろう。
俺は俺の形で、彼女を大事にしていこう。
「さて、もうひと踏ん張りするか」
そう結論が出ると気持ちはすっきりして、軽く伸びをした後再びペンを手に取った。
静かな静寂に混じる、ペンを走らせる音と小さな南の寝息。
徹夜も悪くないな、なんて思ったのは久しぶりだった。