第7章 俺の好きなひと。
いつもの見慣れた科学班の研究室の中。
「それじゃ、お先に失礼します~」
「ああ、お疲れさん」
よれよれと、目の下にでかい隈を作ってドアの向こうへと出ていくジョニー。
これで仕事場に残ったのは俺一人になる。
「あ"ー…」
誰もいないから遠慮なく声を出して、深夜に回った時計を憎々しげに見上げた。
クソ、今日も残業か?
「ん…」
するとあるはずのない人の声が微かに聞こえて、心臓が飛び上がった。
だ、誰だ!?
「…?」
声がした方角を見れば、其処には書類の山。
あのデスクは確か───
「…南?」
南のデスクだ。
恐る恐るデスクに近付いて書類の山を覗き込む。
すると其処には書類に埋もれるように、机に突っ伏して眠る南の姿があった。
あー…誰も気付かなかったのか?
まぁこの状態なら…全く姿が見えないから、仕方ないかもしれないが…。
…それでも気付かれなさ過ぎだろ。
「…はは」
思わず声に出して笑いが零れる。
科学班の中では、女性だからって周りに特別扱いされることなくこうして過ごしているのに。
ラビと街に降りる時は、普通の女性だった。
普通に、綺麗な女性だった。
「すー…」
小さな寝息を立てて眠る、南の顔をじっと見る。
最近ラビの変なちょっかいのせいで、あまり直視していなかったからな。
久々に、きちんとその顔を見た気がした。
目の下には俺と同じ隈があって、疲れた顔をしている。
縛った髪は、眠り込んでいる顔を半ば隠すように無造作に散らばっていた。
この姿がいつもの見慣れたものだったからか、あの化粧をした姿は衝撃的だった。
…というか、見惚れてしまったのかもしれない。
素っぴんでも充分女性なんだが…なんというか、更に柔らかい女性特有の雰囲気が溢れていて。
一瞬、息が詰まって声を掛けられなかった。
あんなふうに気合い入れてお洒落したのは…やっぱり、ラビの為なのか?
「………」
そう思うと、何故か胸がもやもやと暗くなった。