第50章 水の揺りかご
「で、でも。オニイ、チャンなんです…っ」
「ハイハイ、噛み噛みだな。ちょっとガキは引っ込んでてくれる?オレはこの美人ちゃんと───」
「うるせぇよ」
頭を撫でていたチャラ男さんの手が突然離れる。
見えたのは、その手首を掴んで止めている神田の手。
「男女の見分けもつかねぇ奴が、こいつの良し悪し語るんじゃねぇ」
そしてギロリと威圧感満載の眼孔で、チャラ男さんを睨み付けた。
怖っ…!
「男女って……え?」
ぽかんと間抜けな表情をしていたチャラ男さんも、やっとその意味に気付いたのか。
徐にペタリと神田の───…うわ。
それはやめた方が…っ
「ない…ッ!!」
顔面真っ青にして言うチャラ男さんの手は、無遠慮に神田の胸元をパーカーの上からペタペタと触っていて。
───ブチン、
途端に、何かが切れるような音がした。
…あ。
「気安く触んじゃねぇよッ!!」
「ぐブッ!?」
瞬間、神田の怒り任せの鉄拳が、チャラ男さんの顔面に見事にめり込んだ。
…言わんこっちゃない。
「うわ…きぜつしちゃったけど…」
「知るか」
見事に鼻血を出して倒れたチャラ男さんに、構うことなく吐き捨てる。
それでもその騒動に周りから向けられた視線には、居心地の悪さを感じたのか。
「チッ…オラ行くぞ」
「え?いくって…」
「初体験、するんだろうが」
私の腕を掴んだかと思ったら、目の前のプールに───…ちょっとストップ!
「わぷ…っ!」
神田に腕を引っ張られるまま。
ザプンと、一気に体が水に浸かった。