第50章 水の揺りかご
「…これ、ぜったいにかがくはんのみんなには、だまっておかないと…」
ジジさんに借りた大きなフリルのワンピース水着に身を包んで、リーバー班長に借りたパーカーに腕を通す。
そんな鏡に映った自分は、どこをどう見ても子供の水遊び姿。
こんな姿、科学班の皆にバレようものなら盛大にからかわれるだけ。
ジジさん口軽いからな…ちゃんと口止めしておこう。
「───お、やっぱ似合ってんじゃねぇか」
「…ありがとうございます」
待ち合わせた場所に行けば、すっかり遊びを満喫する気満々の柄シャツに水着のジジさんがいた。
その隣で仏頂面をしている神田も、ジジさんに押し付けられたのか。
黒いハーフパンツに黒いパーカー姿。
団服のロングコートのイメージが強いからか、こんなラフな格好は珍しいかも。
「おーし、じゃあ遊びに行こうぜ!みっずぎっ美女っ♪」
「…もしかしてナンパのこうじつに、わたしたちつかっただけじゃないのかな…ジジさん」
「あのクソ眼鏡…」
るんるんとスキップしながらプールに向かうジジさんに、思わず神田と愚痴る。
…まさか、あんな良いこと言っておいて。
一人で遊ぶわけにもいかないから、私達を巻き込んだんじゃ…いやまさか。
「まぁでも、こんなにひざしがあついから。きっとプール、きもちいいよ」
それでも乗りかかった船。
折角の機会だし、楽しまないと損かな。
…というかどうせなら、神田に楽しんでもらいたいと思った。
ジジさんが可愛い子供だなんて言ったからか。
幼い姿は想像つかないけど、神田もリナリーと同じ。
幼い頃からエクソシストとして戦ってきたから普通の男子より、きっと大人びているんだろう。
背伸びして当たり前の世界で育ったからこそ、もっと周りがちゃんと見てあげなきゃいけないと思う。
「いこう、かんだ」
「ハァ…」
面倒臭そうに溜息を零しても、そう促せば渋々神田はついて来てくれた。
昨日はただただ神田に振り回されてたけど…こういう素直な一面もあったんだなぁ。
なんだか、少し意外。
こんな神田なら、一緒にいても威圧で気まずくは感じないかも。