第50章 水の揺りかご
「なんだ、そういうことか」
「すみません、にんむちゅうなのに…」
「いや、大丈夫だろ。今回の任務はアジア支部に行くことだ。その間の時間の使い方は、自由だろうし」
怒りMAXなリーバー班長に慌てて事の説明をして、その怒りが沈静化した時には、既にジジさんの頭には大きなタンコブが二つできていた。
「…おい、リーバー。俺への態度と違うぞ」
「ん?何かまだ言い訳あるのか」
「…イイエ」
仕事に厳しいけど、理解力もある班長だから。
余暇をプール遊びに使うことを、あっさりと承諾してくれた。
だけど頭のタンコブを抑えながら反論するジジさんに、さらりと向けるその笑顔は…目が全然笑ってない。
やっぱり静かに怒ってる時が、班長は一番怖い。
「遊ぶのはいいが、夕食の時間前には上がれよ」
「リーバーは行かねぇのか?」
「俺は見物しとく。ガラじゃねぇし」
ジジさんの問いに首を横に振る班長。
なんだ、班長は参加しないんだ…ちょっと残念。
上司を差し置いて遊ぶのは、なんだか気が退けるけど…折角、私達の為にジジさんが誘ってくれたから。
その好意を無碍にする気にはなれなかった。
「それと、南」
「はい?」
「水着、抵抗あるなら。これ着とけ」
ほら、と班長が差し出してくれたのは、またもやレンタル物なのか。
子供用の水着パーカー。
「っありがとうございます…!」
その行為には思わず土下座したくなった。
やった、助かった…!
本当にありがとうございます!
「なんだよ、折角良い水着選んだのに。こんなの着てちゃ可愛さ半減だろ」
「あのな…南の気持ちも考えてやれ」
口を尖らせ文句を言うジジさんに、班長が呆れた顔で制す。
本当に班長を同行者に選んでよかった。
今、改めて心から思いました。
「南の気持ちねぇ…本当かー?」
「…なんだよ」
「可愛い娘の水着姿を、周りに見せたくないだけじゃねぇの。お父さん」
「っ…誰がお父さんだ、誰がッ」
からかうように言うジジさんに、班長が声を荒げる。
その顔はどこか少しだけ赤いような気がした。
…親子に間違われるの、恥ずかしいんだろうな。
ごめんなさい、なんか。