第49章 海へ
「およぐって…あのプールで?」
「勿論。美女は近くで見たいだろ」
「…じゃあジジさんだけ、いってきたらどうですか」
「何言ってんだよ、子供の仕事は遊ぶことだろ」
「わたしはこどもじゃ───」
「ってことで、神田も誘うか。おーい、神田!」
言葉を全て言い切る前に、がっしりとジジさんの腕が私の胴体に回される。
そのまま軽々と持ち上げられると、神田の元に連行されてしまった。
ち、ちょっと待って…ッ
そんな提案、受け入れられないです!
「ジジさん、おろして…ッ」
「まぁまぁ。よっ神田!今から南とプールに行くんだけどよ、お前も行こうぜ」
「嫌だ」
やっぱり。
にこにこと誘うジジさんに、即答ですっぱりと断る神田。
その答えはあまりにも目に見えていた。
「なんだよ。乗船中、ずーっと此処で日向ぼっこするつもりか?今日一日、船の上だぞ」
「それの何が悪い」
「悪くはねぇけどよ…お前、此処に一人でいる方が危険だぞ」
「?」
ヒソヒソと顔を寄せるジジさんに、眉を寄せながらも神田は怪訝な顔をする。
危険って…どういうことだろう?
「周り見てみろよ。肉食系のおねーサマ達の視線、感じねぇのか」
視線?
ジジさんの言葉に、神田と一緒に辺りを見渡す。
すると……成程。
ちらちらとこちらに向く、いかにも攻めてます!という服装で飾った美女の方々の視線が。
「此処に一人でいたら、即効でおねーサマ達の餌食だぞ」
……成程。
確かにジジさんの言うことは一理ある。
こんなテンションの上がる大型客船の上で、好みの男性を見掛ければ声だって掛けたくなるもの。
「………」
その脅威は神田も感じたらしく、一気に顔色が悪くなった。
…うん。
その女性にも劣らぬ美形は、神田本人には不利なことが多い気がする。