第48章 おやすみの、
「───よし」
最後の化学式の解答を終えて、ようやくペンを置く。
結局俺が仕事をこなす間、南はぐっすりと腕に寄り掛かったまま寝続けた。
やっぱり疲れが溜まってたんだろう。
「………」
そう思うと起こすのはなんだか気が引けて、そのままベッドに運ぶことにした。
「よ、…っと」
恐る恐る、頭を支えるように片手を添えて体を離す。
座り込んだ南をそのままの形で、抱き上げるように膝裏と背中に腕を回す。
「…ん、」
俺の胸に凭れるように頭を預けさせれば、一瞬だけ身動いだものの起きる気配はなかった。
寝ている子供は、無意識で全体重を掛けてくるからいつもより重く感じるとか言うけど……軽過ぎだろ。
「何食べてたら、こんなに軽くなるんだか…」
その体の小ささも関係あるだろうけど、とにかく軽い。
思わず苦笑しながら、下の空いているベッドに運ぶ。
そっとシーツに寝かせて布団をかけてやっても、小さな体で列車旅は大変だったのか、南は目を開けなかった。
「ごめんな、遅くまでつき合わせて」
触れるか触れないかの距離で、小さな頭を撫でる。
最初の列車で親子と間違われた時は、流石に凹んだが。
こうやって子供の南を見てると、親の気持ちもわからなくも───………いや、ないな。
どんなに子供の姿であっても、南は南。
それは俺の中で変わらないことらしい。
「………」
だからなのか。
無防備に寝ているその姿だって、ついじっと見てしまうし。
薄く開いた口から漏れる寝息にだって、耳を澄ませてしまう。
「すぅ…」
深い寝息を零すその小さな唇に、視線を落とす。
ふっくらとした小さな淡い色の唇。
じっと見ていると、なんだか目が離せなくなって…気付けば誘われるように顔を近付けていた。