第1章 私の好きなひと。
世界を終焉へと導く者───"千年伯爵"。
ノアの一族であるその千年伯爵と、彼が創り出す悪性兵器"AKUMA"を唯一破壊できる存在。
それが"エクソシスト"と呼ばれるイノセンスに魅入られし者達。
そんな彼らを支える為にこの黒の教団では、調査任務でエクソシストの手足となる探索班や、各国にある他支部と連絡を取り合う通信班、怪我の手当てや治療専門の医療班などが組織として組み込まれている。
その中で科学的面からサポートする私達は"科学班"という役職を担っていた。
「大丈夫?南さん」
「あ、リナリー」
ことりと、目の前に良い匂いの立つコーヒーが置かれる。
書類の山から顔を上げれば、其処にはツインテールの黒髪美少女がいた。
リナリー・リー。
まだ未成年なのにこの教団に幼い頃から住んでいて、エクソシストとして戦場に出てるばかりか、科学班の給仕もしてくれる優しい子。
顔は可愛いし性格は良いし、正に黒の教団のアイドル。
うん、私もアイドルって言葉はリナリーの為にあると思う。
こんなに良い子なのに兄があの室長だとか。
遺伝子っていうのは不思議です。
「ありがとう」
「いいえ。あんまり無理、しないでね」
優しいリナリーの言葉を受けて、ありがたくコーヒーを頂くことにする。
一口飲めば…うん、美味しい。
リナリーの淹れてくれたコーヒーは、いっつも美味しいんだよね。
椅子の背凭れに凭れて、コーヒーを味わいながらリナリーを目で追う。
書類や化学用品で埋もれた汚い職場を、給仕セットの台車を引いて回る姿は正に天使。
心のオアシス。
見てるだけで癒される。
今日もリナリーは可愛いなぁ。
「はい、リーバー班長もどうぞ」
「おう、ありがとな」
そこに明るい金髪に近い茶色のツンツンと跳ねた髪が見えて、ドキリとする。
笑顔でリナリーからコーヒーの入ったマグカップを、受け取っている人。
"R"と書かれているのは、その人専用のマグカップだから。
高い身長に、くたびれた科学班の白衣姿。
癖の強い明るい髪に、同じ色合いの顎髭を少し生やした口元。
彼の名前はリーバー・ウェンハム。
この科学班のリーダーである班長。
私の上司に当たる人。
そう、彼が
私の好きな人。