第46章 父と娘
「あ、いたっ」
やっと見つけた売り子さんに、ほっとして歩み寄る。
「すみません、…おねーさん」
「はい?あら、可愛いお客さんね」
見た目は多分、私と同じ歳くらいだろうけど。
今では私が年下だから、下手な物言いはできない。
…割と気を遣うかも。
「おべんとう、よっつください」
「はい、4つね。大丈夫?持てる?」
視線を合わせるように、屈んで応えてくれるこの売り子さんはきっと良い人。
頷いてお金を渡せば、売り子さんがお弁当を重ねて。
「寄こせ」
それを私の後ろから伸びた手が、受け取った。
「え?…わ、」
きょとんと神田に視線を移した売り子さんの頬が、忽ち朱色に染まる。
…流石、美形代表のような顔を持つ神田。
アレンも紳士でモテるけど、一目惚れさせた回数なら神田の方が多そうな気がする。
「えぇっと…この子のお兄さん、ですか?」
「違ぇよ」
…うん。
今度は兄妹に間違われる始末。
神田とは髪や肌の色合い的に、リーバー班長より似てるだろうし。
間違われても不思議じゃないかもしれないけど…。
……神田みたいな兄は、ちょっとごめんかな。
「しりあいですから、だいじょうぶです」
一応、売り子さんにフォローで言えば、私を見下ろすその体が再び屈んで。
「そっか。教えてくれてありがとう。お礼にこれ、サービス♪」
はい、と手持ちキャンディを渡された。
……うん。
「………ありがとうございます」
仕方ない、この姿じゃ。
好意はありがたく受け取っておかないと。
「私、ティナっていうの。君のお名前は?」
「みなみ、です」
「南ちゃんって言うんだ。可愛い名前ね。それで、そのお兄さんは?」
…わあ。
こんなに爽やかに、さり気なく名前を聞いてくるとは。
この売り子さん、可愛い顔してやりますね。
潔いのは嫌いじゃない。
「このひとは、かん」
「勝手に人の名前教えんな。行くぞ」
ぺしんっと、後ろから神田の手が私の頭を叩く。
この売り子さん、悪い人には見えないから、つい。
キャンディ貰っちゃったし、つい。
ごめんなさい。