第46章 父と娘
「ごめんね、私が聞いたから…っ」
「いえ、だいじょうぶです」
売り子のティナさんが申し訳なさそうに、叩かれた頭をそっと撫でてくる。
うん、やっぱり良い人な気がする。
安心させるように笑いかければ、ティナさんも笑顔を見せてくれた。
よかった。
「お兄さんも、ごめんなさい。不躾なことを南ちゃんに聞いちゃって」
腰を上げて、深々と頭を下げるティナさん。
礼儀正しいなぁ…下手に神田に好意を見せてくる女性より、よっぽど良いと思う。
顔も可愛いし、中身もしっかりしてるみたいだし。
「なら、お兄さんに聞いてもいいですか?お名前」
「…あ?」
「………」
…うん。
そしてやっぱり、凄く潔い。
ある意味尊敬する。
「チッ」
ティナさんの問いかけに、面倒臭そうに顔を歪めた神田は舌打ちをしたかと思うと、器用に片手で重ねたお弁当を持って───
「わ…ッ!?」
空いた手で背中の服を掴まれたかと思ったら、軽々と持ち上げられた。
な、何…っ!?
「コブ付きでよけりゃ、教えてやるよ」
「「…え?」」
ずいっと神田が、私を片手でティナさんに突き付けるように持つ。
驚き見てくるティナさんと、宙ぶらりん状態の私の声が重なる。
…今、なんと。
「コブ付きって…」
「意味なんてわかんだろ。俺の餓鬼だ」
「で、でも…っ」
「見た目で歳を測るんじゃねぇよ」
「ええッ?」
いや、ちょっと。
兄妹ならまだしも。
親子っていうのは、流石に無理あるんじゃ…っ
「こいつの世話ができねぇなら、気安く声なんて掛けるな」
それだけ言うと唖然と驚くティナさんを置いて、神田は踵を返してその場を後にした。
「…………あの、」
「なんだ」
「わたしをナンパぼうしのどうぐに、しないでください…」
「お前が勝手に、名前教えようとするからだろ」
それは悪かったですから、もうしませんから。
だから、その。
いい加減、下ろして下さい。
宙ぶらりんに揺れる視界の高さとか、間近に見える美形のお顔が。
色々と怖いです。