第43章 兄と妹
「すっかり南さんの子供姿、定着しちゃいそうですね」
「うーん、それはこまるかな…」
ずっとコソコソ隠れている訳にもいかず、結局周りには私のこの姿は科学班公認でバレてしまった。
最初こそ物珍しげにあちこちから研究員の視線を感じていたけど、この姿で食堂にいるのも見慣れた光景になってしまったのか。
もうツッコんでくる人はいない。
アレンの言葉に思わず苦笑する。
「南っ!」
その時、不意に明るい声が私を呼ぶ。
誰かと振り帰る前に、ふわりと体が浮き上がっ…違う、抱き上げられた。
「わ…っ!?」
驚き声を上げると同時に、くるりと体は器用に回転させられて。
「見ーっけ♪」
視界に飛び込んできたのは、鮮やかな赤髪だった。
「うわ、マジでちっさくなってる」
面白そうに笑う、少し垂れた翡翠色の片目。
黒い眼帯に、黒いヘアバンドに、黒い輪っか状のピアス。
最近見かけていなかったその姿は、任務に出ていたから。
「ラ、ラビ…いつかえってきたの」
「ついさっき。そしたら、南の面白い話聞いたからさー。急いで来ちった」
片手で器用に私を抱いて、もう片手は自分の顎に当てる。
ふむふむと観察するように見てくるその姿は確かに、団服にマフラーやヘアバンド等しっかり身に付けた、未だ任務時の格好だった。
「なんか色々、着飾ってるけど。これ南の趣味さ?」
いえ違います。
…とは、リナリーを前にして言えなくて。
「…それより、おかえりなさい。にんむ、おつかれさま」
話題を変える意味でも、その言葉を口にする。
見たところ怪我はしてなさそうだし…よかった。
内心ほっとしながら再度その目を見れば、ラビは砕けた笑みを浮かべた。
「ん。ただいま」
どこか柔らかくも思える、いつもの笑顔。
「おかえり」と「ただいま」
今まで何度も繰り返してきた言葉のやり取りは、今までと変わらないものなのに。
なんだか、少しだけ胸が温かくなった。