第41章 交換条件
神田との交換条件を交わしてから、数十分後。
私は教団の広い廊下の真ん中にいた。
「…これ、おもってたのとちがう…」
「荷物は黙ってろ」
正しくは、廊下を運ばれていた。
まるで荷物のように。
ちらちらと白衣の隙間から見える、廊下を歩く研究員の人々。
夜と打って変わって、昼間は賑わう大廊下。
六幻の検査書を私が作る条件で、神田が持ち掛けた案。
それは科学班の研究室までのお守り役だった。
それは確かに、ありがたかった。
いつもコムリンを始め変な機械や薬を作ってしまっては、周りから大顰蹙を買ってる科学班だから。
こんな姿で堂々と大廊下を歩くのは、また科学班の失敗を宣伝するようなもの。
それはなるべく避けたい。
だから確かに交換条件は成立したんだけど。
……この運び方は、あんまりだと思う。
「いき、くるし…」
「黙ってろつったろ。口塞ぐぞ」
自分の白衣で体を隠すようにぐるぐる巻きにされて、まるでミノムシ状態。
それを片手で軽々抱いて神田が運んでいる、この状況。
口を塞ぐ前に窒息しそうです。
白衣の簀巻き状態に。
「あ、神田」
不意に明るい声が聞こえて、神田の足が止まる。
教団では珍しい、高いトーンのこの声は───
「おはよう」
リナリーだ。
返事はしないものの、神田の目は向いているんだろう。
神田とリナリーは幼馴染だからか、一緒にいる姿は何度も見たことがある。
美男子と美少女だから、並ぶと栄えるしね。
「おはよう、ですよ。挨拶してるんだから、返さないと。耳の機能止まってるんですか?」
そこに続いて聞こえたこの声は…アレン?
…相変わらずリナリーと一緒にいたのかな。
やっぱり仲良しだよね……これで付き合ってないなら、なんなんだろう。
おねーさんには思春期の恋がわかりません。
「朝っぱらから、うざい顔見せてんじゃねぇよ」
途端、私を抱いてる神田の腕がミシリと力を入れた。
ち、ちょっと待って抱き潰さないでね…!
「そうやってすぐ喧嘩売る癖やめたらどうですか。カルシウム不足ですよ、バ神田」
アレンも充分、喧嘩売ってるから!