第40章 幼子と暴君
「───はい、どうぞ」
背伸びして差し込んだ鍵を回して、保管室の扉を開く。
棚にずらりと並ぶ、様々な薬品や貴重品。
その中でそのイノセンスは一際目を惹いた。
丁寧に刀掛けに置かれた、黒光りする刀の鞘。
神田の装備型イノセンス、"六幻"。
「………」
その前に立つ神田は、黙って六幻を見下ろしていたかと思うと静かに鞘を手にした。
じっと六幻を見下ろす目は、何を思っているのかわからない。
…にしても。
「…はぁ、」
頭、痛いなぁ…。
思いもかけない人物に出会ったから、頭の回転に忙しくて忘れてたけど。
ズキズキと頭は痛むし、体も痛い。
ついでに肌寒い。
風邪とか、ひいてないといいけど…。
「…?」
頭を押さえて俯いていたら、不意に目の前を神田の足が通り過ぎる。
保管室を出ていくその手には…あ、ちょっと!
「も、もちだしげんきん!だめだって…!」
慌てて追いかける。
相変わらず、速度をまるで緩めない神田の足には中々追いつけない。
「もう直ってる。コムイに伝えとけ、検査なんて必要ねぇってな」
六幻と同調しているから、わかることなのか。
顔だけ振り返った神田はサラリとそう告げた。
でも、ちゃんと検査書作らないと…っ
「まってって、かんだ…っ」
というか私を此処に一人置いていかないで下さい…!
せめて科学班の誰かに伝言だけでも、お願いします!
「………」
すると不意に何か思い立ったように神田の足が止まって、くるりとこちらを向いた。
え。
心の声、通じた?
スタスタと戻ってくる体。
黙って見下ろしてくる目は、相変わらず冷たいもの。
…こ、怖いんですけど…。