第40章 幼子と暴君
「まって。むげんなら、まださいしゅうけんさがおわってないから…っ」
慌てて追いながら、数日前から修理にきていた六幻(むげん)の存在を思い出す。
日本刀の形をしたそれは、神田の装備型イノセンス。
「直ったんだろ、コムイから聞いた。いつまでも此処に置いとく意味はねぇ」
神田は私の言葉なんか、聞く耳持たず。
保管室のドアの取っ手を掴むと、ガチ、と鍵の掛かった音がした。
ガチ、ガチ、
何度も、取っ手を回す音。
「………」
そして沈黙。
…どうしよう。
逃げたい。
「……おい」
思わず足を止めれば、くるりとその綺麗な顔がこちらを向いた。
…怖い。
美形でここまで恐怖を与えられるのは、神田だけだと思う。
「鍵はどこだ」
やっぱり。
「…しりません」
「嘘つけ、知ってんだろ。科学班なんだろうが、お前」
あ、ちゃんと聞こえてたんだ。
「…そこはリーバーはんちょうとハスキンさんしか、あけられないから…」
咄嗟に、班長と班長補佐の二人の名前を上げる。
実際は科学班なら誰でも出入りできるけど。
ごめんなさい、二人共。
だって怖いんです。
目の前のこの人が。
するとスタスタと、今度はその足がこちらに向かっ──…え、いや来ないで。
怖い!
「っ」
「待てコラ」
思わず背中を向けて逃げようとすれば、がしりと頭をわし掴みされた。
い、痛い…っ
「嘘ついてたら、絞めるぞテメェ」
「っ…!」
強制的に振り返させられて、間近にあったのはドスの効いた声に殺気立つ目。
それ、仮にも仲間に向けるような目じゃないから…!
「っ…そ、そんなすぐにむげんがひつようなの…っにんむ、はいってないでしょ?」
ビクビクしながらも、なんとか言い返す。
六幻がなきゃ、エクソシストとして任務には出られないはず。
すると神田は眉を潜めて、また小さく舌打ちをした。
「テメェには関係ない」
逸らされた視線は、静かに拒否をしていた。
神田は、いつもそう。
必要以上のことは口にしないし、周りと関わろうとしない。
エクソシストにとって、イノセンスは切っても切り離せないもの。
私の知らない理由が、何かあるのかもしれない。