第38章 宴のあとに‐R.W‐
「班長、それ…キザです」
「…あのな」
本心で言ったんだぞ。
流石に反論しようかと口を開けたら。
「でも…凄く、嬉しい」
額に手を当てて、赤い顔を半ば隠すように。
南は、ふわりと笑った。
「なんか、もう、嬉しくって。お腹いっぱいになっちゃいました」
ふわり、ふわり
その笑顔に音を付けるなら、きっとそんな音なんだろう。
柔らかくて、温かみさえ感じられそうな。
そんな南の笑みに目が離せない。
「………そうか、」
一瞬本気で抱きしめたくなって、咄嗟に拳を握って息をつく。
「……だから、髪は下ろしとけよ」
「…え。それ本気だったんですか」
どうにか本来の目的を思い出して、仕切り直す。
「今日だけでいいから。これ、班長命令な」
「でも、なんで───…あ、リーバー班長っ」
念を押して、逃げるように給湯室から出る。
理由は聞くな、答えられないから。
「………はぁ、」
自分のデスクに戻って、椅子に座ると同時に本日三度目の溜息。
夢の中、朧気な意識で感じた南は見たことのない色気みたいなものがあった。
それを思い出すと顔は熱くなる。
…やっぱり、あれは夢じゃなかったのか…?
………そんなこと、流石に恐ろしくて南には聞けない。
なんせ、抱きしめるだけならまだしも。
その…南の、その胸元に…直接手で触れてしまったような───……思い出すな俺。
今思い出したら、流石に南の顔が直視できなくなる。
───でも。
そんな記憶さえも吹き飛ばす程、はっきりとした意識の中で見た南のさっきの笑みは衝撃的で。
「………心臓に悪い…」
バクバクと鳴る自分の心音に、本日四度目の溜息を溢した。