第38章 宴のあとに‐R.W‐
「下ろすって…でも、仕事中ですし…」
案の定、困惑気味な南の顔が向く。
そうだろうな。
「昨日、お風呂も入ってないから。汚いですし」
結んだ髪を一房摘んで、苦笑する南の言葉は確かに正論だった。
だけど。
「…別に、汚くないだろ」
その言葉は自然と口から溢れていた。
「汚くしようと思って、してる訳じゃないだろ」
確かに仕事中の南の身形は、同じ年頃の女性に比べれば素朴なものかもしれない。
動き易いからと、よくパンツスタイルでいるし。
白衣をいつも着てるからか、下の服に拘りはないし。
いつも髪を結んで、然程身形を気にしてるようには見えない。
でもそれは仕事を優先しているからであって。
街に出掛ける際に見たあの姿みたいに、ちゃんと女性らしくお洒落する一面も持ってる。
…本来ならお洒落したい年頃だろうしな。
「班長…?」
伺うように見てくる目を見返す。
科学班はエクソシストみたいな、活躍も華やかさもない。
仕事も地味で、毎日書類に埋もれる日々。
労いはされても、感謝されることは少なくて。
体育会系の探索班辺りからは、命を張ってないだとかインテリだとか、嫌味を言われることも多い。
「俺は…綺麗だと、思う」
それでも周りに埋もれながら、こうやって誰かの為にと仕事して。
目の下の隈。
ペンダコの残る手。
くたびれた小さな背中。
その少し乱れた髪の毛も、頑張ってる証だから。
「自分ができることを、精一杯頑張ってる。そんな姿は、汚くなんてない」
気付けば、真っ直ぐに南を見てそう口にしていた。
「……っ」
すると予想外だったのか、ぽかんと俺を見上げていた南の顔が。
途端、真っ赤に染まった。
「ぁ、ぇ、…えと…」
覚束ない声を辿々しく漏らしながら、視線は戸惑うように辺りを彷徨う。
「…っ、それ、クロス元帥の真似ですか…」
…おい。
やっと出てきた言葉はそれか。
「…俺だって、偶にはこういうこと言うぞ」
まぁ、いいか。
照れ隠しで言ってるんだろう、それはよく伝わってきたから。