第38章 宴のあとに‐R.W‐
「熱っ」
慌てて手が滑ったのか。
跳ねたカップ内の湯が、南の手を濡らす。
「何してんだ、全く」
「あ、」
咄嗟に火傷した指を咥える南に呆れて、その手首を掴む。
目の前に手洗い場があるのに、水で冷やさなくてどうする。
そのまま勢いよく水を流して、掴んだ南の手を蛇口の下に翳す。
…相変わらず細い手首だな。
「………」
なんとなしに見て、なんとなしに思って。
なんとなしにした行動だったけど。
…なんとなしに、思い出してしまった。
昨日、南の手首を掴んで抱き寄せた夢を。
変に気まずくなる前に声を掛けようとして、見えた南はこっちを向いてはいなかった。
「…っ…、…」
見て取れるくらいに耳を赤くして、顔を逸らしてぎこちなく立っていたから。
…なんだその反応。
…俺が昨日抱き枕にしてしまったからか。
「あー…ちゃんと、冷やせよ」
俺まで変に照れそうになる前に、掴んでいた手を放す。
「…はい、」
小さく頷く南を見下ろす。
その赤い耳は、俺が夢で見た南とどことなく重なった。
そのまま細い項に視線を移せば、ほんのり赤い跡が──
…………赤い跡?
「………」
まさか。
ほんのりと僅かに主張するその跡が、なんなのか。
思い当たる節があるから、そこから思考が切り替えられない。
いや待て。
あれは夢だったはずだろ。
「え、と。もう大丈夫そうなので…」
手を握り具合を確かめながら、取り繕うように赤い顔で南が笑う。
「ま、待て」
そのままカップを手に去ろうとする姿に、慌てて引き止めた。
虫刺されだなんて言えば、それまでだけど。
…そう無視できる程、今の俺には余裕がなかった。
「髪、」
「はい?」
「…髪、下ろしとけ」
………だからって、もっとマシな言い方なかったのか、俺。