第35章 熱を帯びる
「やめ…、班長…っ」
何度も感触を確かめるかのように、班長の唇が項に触れる。
ただそれだけの行為なのに、首筋にかかる吐息や背中を包む熱に、ぞくぞくと背中から何かが走り抜けるような感覚がする。
手首と、腰と、背中と、項と。
班長が触れている場所から、熱が帯びていくような感覚。
どうしよう。
どうしよう、これ。
絶対に色々、まずい気がする…っ
「南…」
耳元で掠れた班長の声が、私を呼ぶ。
どこか艶のある、そんな色の含んだ声で呼ばれたことなんてなくて。
ぞくりと、体が震えた。
「…ここ、」
「え?…ぁっ」
がっちりと腰に腕を回したまま、手首を掴んでいた手が離れる。
束の間、それは私の鎖骨に触れた。
「見せた、のか」
見せた?
見せたって、何を。
「っ!?待っ…!」
言葉の意味がわからず、どうにか腰を拘束する腕から抜け出そうと四苦八苦していると。
その手はするりと服の下に滑り込んだ。
「怪我。…触らせた?」
耳元の声が、どこか圧のある声で問いかける。
なのにその手は、酷く優しい動作で私の胸元の上を這う。
怪我には直接触れず、遠慮しているその仕草は最近感じていた班長の優しさと重なってドキリとした。
「さ、触らせって…誰に……班長、班長起きて…っこれ、本当に駄目ですって…っ」
まずい。
絶対にまずい。
流石にこんな状況を誰かに見られたら、からかわれるだけじゃ済まない。
心臓がバクバクとうるさく響く。
同時に、絶対に真っ赤であろう自分の顔も熱が上がって。
くらくらする。
「…南、」
耳元で囁かれる声。
項に触れる唇。
覆い被さるような抱擁感は甘い束縛のようで、素肌に触れる指先に、熱が広がる感覚。
くらくらして、頭が痺れる。
それが果たしてお酒の所為なのか、はたまた違う別のものなのか。
判断もつかない。
どうしよう。
こんなふうに触れられて、こんなふうに囁かれて。
普段の班長なら絶対にしない行為に、酔ってることなんてわかりきってるのに。
こんな所、誰かに見られたら駄目なのに。
「っ…」
体は熱を帯びて、逃げ出せない。