第35章 熱を帯びる
色々と限界を感じて、僅かに息が上がる。
駄目だ、本当にどうにかしないと。
そう心は焦るのに体は上手く動かなくて、甘い痺れのようなものを感じていた。
その時だった。
「っ…ふ…?」
不意に肩が重くなる感覚。
「…すー…」
振り返らなくてもわかる。
肩に乗った班長の顔から零れた、その寝息に。
「…班長?」
恐る恐る呼ぶ。
返事はない。
私の腰をがっちりホールドしたまま、どうやら班長は唐突に寝落ちたらしい。
「……た、助かった…」
思わず脱力する。
未だに心臓はバクバクと脈打っていて、顔も絶対に真っ赤だと思う。
これ以上触れられたら、アルコール成分も手伝って思考がショートしてしまうところだった。
「…見られて、ないよね…」
恐る恐る辺りを伺う。
相変わらず周りは皆、屍状態。
この状況を見ている者は一人もいなかった。
よかった…。
「すぅ…」
少しだけ顔を傾けて、肩に乗った班長の顔を見る。
しっかりと閉じた目は、簡単には開きそうにない。
「…悪酔いし過ぎです」
起きないことを確認して、小さく溜息。
いくらなんでも、こんなセクハラ紛いなこと。
リナリー辺りにしようものなら、コムイ室長に本気で殺されると思う。
……セクハラ、してないよね?
「………」
一度考えてしまうと気になって、もう一度その寝顔を見る。
私の知らない時間を、リナリーと過ごしてきた班長だから。
されて嬉しいとか、そういう次元じゃないけど…こんなこと他の女性にはして欲しくないな…。
そう、思った。
「…って、今はそれどころじゃない」
しんみりする気持ちを追い出すように、慌てて頭を切り替える。
いつ誰が起きるかわからない。
この状況をどうにかしないと。
でも素肌に触れていた手はどうにか離せても、がっちりと私の腰を抱く班長の腕はビクともしない。
「…どうしよう」
ある意味、危機は脱したけど。
…この腕から解放される手段が、見つかりません。