第34章 みんなの宴
「…私、お祝いしてもらえる程…何もできてないですよ」
イノセンスだって見つかってないし、ファインダーは一人命を落としてしまったし。
決して成功と言える任務じゃなかった。
それなのに皆に祝ってもらうなんて。
「だから、やっぱり───」
「よーし!南の初任務無事帰還を祝して!乾・杯!!」
「「「かんぱーいっ!!!」」」
「………話聞いてますか」
私の言葉なんて、ガン無視。
盛大に仁王立ちで乾杯の音頭を取るジジさんに、同じくアルコールの入ったコップを掲げてノりにノる科学班一同。
…絶対、飲んでどんちゃんしたいだけだと思う。
飲み会があれば残業しなくて済むし。
絶対、ただ単にストレス発散したいだけだと思う。
「まぁまぁ。でも南が無事帰ってきてくれたことは、大事なことだし。お祝いしてもいいと思うよ」
「ロブさん…」
広い教団の食堂の一角。
其処に仕切りを使って作った、簡易的な個室広間。
目の前の広い長机には、ジェリーさんが用意してくれたご馳走が所狭しと並んでいる。
私の任務祝いという名目で始まった飲み会。
一杯目ということで乾杯用に渡されたビールの入ったコップを手に溜息をつくと、ロブさんが優しい笑顔を向けてくれた。
「ほら、今日は無礼講だ。南も飲んで。それとも医務室で薬とか処方された?」
「あ、それは大丈夫です。ありがとうございます」
促されるままコップに口を付ける。
久しぶりに飲んだほろ苦い味は、少し慣れるのに時間がかかりそうだった。
…まぁ、皆で騒ぐのって嫌いじゃないし。
お言葉に甘えて、私も楽しませてもらおうかな。
「南、他にも色々あるから飲みなよ~」
「うん。何があるの?」
「えっと…ワインとウイスキーとカクテルと…日本酒も用意してくれたんだよ!珍しいよね」
「へー、そうなんだ。どんな銘柄なんだろ」
手招きするジョニーに、期待して歩み寄る。
「出羽桜」
…はい?
「俺が勧める銘柄はそれだな」
突如聞こえた低い声。
私が知る限り、この科学班にそんな一言で足を竦ませる程、威圧のある声を持った人はいない。