第34章 みんなの宴
「南~。ついでにこの薬品の詳細も、お願いできる?」
「あ、うん」
仕事中に、別の仕事が入ってくるなんてよくある話で。
どうしよう…今日一日、薬品サンプルだけで潰れそうなんですけど…!
「終わらない…」
窓の外に目を向ければ、もう薄暗くなっていた。
せめてサンプルだけでも全部終わらせたい。
今日は残業かな…。
そう心の中で定まった決定事項に、溜息をついた。
「よッス!バリバリ仕事してんなぁ!」
「っ!?」
途端、わしわしと後ろから強く頭を撫でられる。
驚き見上げれば、眼鏡越しの目と目が合った。
あ、ジジさんだ。
「なんですか、何か仕事ですか?」
「お前…二言目には仕事仕事って…若い女が仕事に埋もれるなよ。青春しろ、青春」
可哀想な人を見るような目で、こっちを見ないで下さい。
「青春って…ジジさん、親父臭い」
「うるせ」
ぺちりと額を叩かれる。
「それよか、お前。もう定時だぞ。仕事は終わりだ」
「…はい?」
ほれ、とジジさんが指差す時計の針。
いや、確かに仕事終わりの定時刻ではあるけど…それは残業しなくていい場合なだけで。
こんなに沢山、仕事が残ってるのに。
終われるはずがない。
「でも仕事はまだ───…って、皆何してるの…?」
仕事はありますって周りを見渡せば、白衣を脱ぎ、帰り支度を始める研究員の皆が見えた。
え、何してるんですか。
今日はノー残業ディだったっけ?
というかそんな日あったっけ?
「何やってんだ、南。ほら、さっさと支度しろ」
「そうだよ。南がいなきゃ始まらないのに」
何が。
意味がわからずぽかんとしていると、またわしわしとジジさんが私の頭を乱暴に撫でた。
「今日はお前の初任務の祝いだ、ぱーっと飲み明かそうぜ!」
…祝い?