第33章 未熟な想い
「えと…ジョニーが貧血で倒れた時に、体力ない奴は辞めろって」
ああ、あいつが新人の頃か。
今では慣れたが、初めてぶっ倒れた時は体の弱さに驚いたっけ。
「タップに、痩せないと死ぬぞって」
ああ、あいつの健康診断の時か。
内勤でも健康管理はしないと、肥満は命に関わるからな。
「コムイ室長に、仕事しないと殺すって」
………ああ。
それくらい言わないと、仕事しないからあの巻き毛は。
「まぁ…そこは否定しないが、」
なんせ周りが自由過ぎて。
此処で働けば、自然と口調や態度も厳しくなった。
さっきの南を出迎えた科学班の光景も然り。
あのまま揉みくちゃにされていれば、怪我にも響いたかもしれない。
…そう思うと無性に心配になった。
「室長みたいな我侭は、流石に頂けないが…怪我の心配くらいはさせろよ」
負担になんて思ってない。
寧ろ、心配していたいから。
「ちゃんと見ておきたいんだ。厳しくしたいんじゃなくて、ちゃんと知っておきたい」
この気持ちは普通、部下に寄せる思いじゃない。
「だから遠慮なく頼れ。…前にも言っただろ。部下が困ってる時に、頼れない上司でいたくないって」
なのに、言葉にしたのは気持ちとは反対のこと。
こう言えば南は素直に頷く。
それを知っていたから。
「…はい」
卑怯な言い方だと自分でも思う。
それでも目の前のこの存在を傍に置いておきたかった。
…色々と重症だな、俺も。
「…悪いな」
「班長は悪くないですよ」
「いや、」
首を横に振る。
でも真意を伝える気はない。
だから代わりに、その手首をそっと握って。
「…班長?」
「怪我が勲章なんて言わない。でも、よく我慢したな」
細い手首に巻かれた包帯を見つめる。
こんなふうに声をかけることは、あまりしなかった。
同じ科学班だったから特に。
「偉かった」
視線を、手首から驚いたように見上げてくる顔に移す。
するとその頬は、じわりと赤くなって。
「…褒め過ぎです」
それを隠すように、南は控えめに頭を下げた。
…偶には褒めるのも、悪くないかもしれない。