第32章 〝ただいま〟と〝おかえり〟
「御守り、本当に役に立ってくれて…それで、その…すみませんでした!」
「え?」
どう足掻いたって言い訳なんてできないし、するつもりもない。
正直にがばっと頭を下げれば、きょとんとした班長の声が返ってくる。
「中に入ってた御守りのメダル…こ、壊しちゃったんです…」
「……え?」
一瞬空いた、その間が怖い。
班長がどんな顔をしているのか。
怖くて、下げた顔を上げられずにいると。
「……これ、血…か?」
不意にその声が低く変わった。
「えっ?」
慌てて顔を上げる。
見えたのは、裏返したネクタイを見つめる班長の姿。
その手元のネクタイの、メダルが縫い込まれていた場所。
そこには薄らとだけど血痕らしき跡が残っていた。
…しまった。
後で慌てて洗ったけど、染み付いた血痕は中々落ちなかった。
暗い色のネクタイだから早々気付かないかなと思い、後で説明するつもりだったけど…。
流石班長、洞察力高いです。
「あ、そ、それはですね。胸元のポケットに入れてたから、私の血を被っちゃったというか…」
「…AKUMAの襲撃で軽傷を負った。俺が室長に聞いた報告は、それだけだった」
薄らと残る血痕の跡を、私に向ける班長の顔は険しい。
「被るくらいの出血で、軽傷なのか?」
「見た目より、出血が多かったので…」
そう伝えても、班長の眉間の皺はなくならず。
これはきちんと説明しないと。
そう思い、私は慌てて経緯を事細かに伝えることにした。
詳しい任務内容は、さっきコムイ室長に提出した報告書にしか書いてない。
リーバー班長も科学班の皆もまだ詳しいことは知らないはず。
だから一からメダルが割れた経緯を話したんだけど…。
……だけど。
「それで、メダルが割れてしまって…多分、それが原因かと…」
…どうしよう。
話を進めれば進める程、班長の顔が怖いものになっていくんですけど…!
「す、すみません…」
最後にもう一度、謝罪する。
恐る恐る反応を見ていると、険しい顔で黙り込んでいた班長は。
「ったく…お前は、」
大きな溜息をついて、ネクタイを持った手を自分の額に押し付けた。