第32章 〝ただいま〟と〝おかえり〟
「まぁ、なんだ。とにかく…南が無事でよかったよ」
不意に、そう笑顔を向けてくれたのはロブさん。
「詳しい報告は、まだオレ達知らないんだよね。後で任務の話、聞かせてくれる?」
「あ、オレも聞きたい」
弾む声で言ってくるのは、ジョニーとタップ。
「とりあえず南の顔見れたし。仕事に戻るかー」
「あ、南は今日非番だろ。戻って寝ろよ?明日は仕事溜まってるからな」
「ジジさん、こっち手伝ってー」
「おー、了解。じゃあまた明日な、南」
口々に声をかけて、わらわらと自分の持ち場に戻っていく皆。
相変わらずというか…本当に、微塵も変わりなくて。
当たり前に私という存在がある場所。
そんな些細なことに一人じんわりと、私は幸せに似た気持ちを噛み締めていた。
当たり前に、おかえりと出迎えてくれる人がいる。
当たり前に、私の無事を喜んでくれる人がいる。
それがこんなに嬉しいことだったなんて。
…知らなかったな。
「───そういや、」
ふと何か思い出すように、自分のデスクに戻ろうとしたリーバー班長が足を止める。
その目は私に向いて…なんだろう?
「役に立ったか?あの御守り。結構、御利益あるんだぞ」
………。
「あ…………はい、」
さらりと笑って告げられたその言葉に、一気に幸せな気持ちは何処かへ消え去った。
…そうだった。
御守り、返さないと。
「…あの、班長。そのことで、ちょっとお話が…」
「なんだ?」
不思議そうに見てくる班長を連れて、研究室の外に出る。
「あの、御守り、なんですけど…」
恐る恐るポケットから取り出したそれを班長に手渡す。
年月の経った、ボロボロのネクタイ。
一見何も変わらないように見えるけど…ごめんなさい。
中身は大きく変わってしまいました。
「これ、ありがとうございました」
「ああ」
ネクタイを受け取る班長の顔は柔らかい。
入団した時から付けてる御守りだって言ってた。
きっと大事なものなんだろうな…。
そう思うと、更に罪悪感が沸いた。