第32章 〝ただいま〟と〝おかえり〟
「………」
見慣れた研究室のドアが酷く懐かしく思える。
それを前にして、私は中々ドアの取っ手を掴むことができずにいた。
…どうしよう。
ポケットに入ってるそれを握り締める。
そこには、リーバー班長から預かった御守りが入っている。
あの後どうにか直せないものかと試行錯誤したけど…無理だった。
というか下手に扱って悪化したら怖いし。
結局メダルは割れたまま持ってきてしまった。
「し、深呼吸…」
胸に手を当てて息を吸って吐く。
大丈夫、大丈夫。
アレンも、理由を話せば責められないって言ってくれたし。
班長も、普段は厳しいけど優しい時は優しいし。
…普段は、厳しいけど。
…
……
………よしっ
「南!!」
意気込んでドアの取っ手を掴めば、まるで見計らったかのように大きな声で名前を呼ばれた。
「おかえりぃっ!」
「わ…っ!」
振り返った途端、ぎゅっと突進気味に抱きついてくる体。
咄嗟に抱きとめれば、僅かに胸の傷が痛んで思わず顔を顰める。
それでも、よく知った顔が間近に見えて思わず目を瞬いた。
「ジョニー…っ?」
「ドアの前でウロウロしてるの見えたからさ。まさかと思って。おかえり!」
「あ、うん。ただいま」
体を離され、ほっと一息。
満面の笑みで捲くし立てられ、圧されるままに頷き返す。
「任務の内容、コムイ室長から聞いたよ。大変だったんだね」
「そうなの?」
「うん。あ、それより入って入って。皆待ってるから」
「え?」
私の手を握って研究室のドアを大きく開けるジョニー。
バタンと開いた扉の先。
よく知っている研究材料や資料で埋もれた仕事部屋には。
「皆~っ南が帰ったよ~!」
「お」
「南?」
「おー、帰ったか!」
よく知っている、科学班の皆の姿があった。