第31章 溢れ落ちる
ガタン
ゴトン
到着した列車に乗って、教団の帰路に着く。
任務で張っていた気は緩んで、揺れる車両は眠気を誘う。
…はずなのに。
「…あり得ねぇ」
「…寧ろもう、感心しますよ」
「何が?」
目の前の光景に、唖然とするオレとアレン。
其処には一人、鞄を机代わりにして任務の報告書を作る南がいた。
「どこまで仕事中毒なんさ、科学班って。一種の病気だろ」
「帰って作ればいいのに…此処じゃ書き難くありませんか」
「私だって早く休みたいから、此処で仕上げてるの」
むっとした表情で、南が走らせていたペンを止める。
「早く熱いお風呂に入って、ふかふかの布団で寝たいんです。報告書仕上げる暇も惜しいんです。だから今此処で作っておこうと思って」
それは一理あるけどさ。
昨日の今日で、疲れも蓄積してるはず。
…どんだけ仕事人間なんさ。
「僕は今すぐにでも、此処で寝たいですけどね」
疲れた顔でアレンが苦笑する。
人一倍食事を必要とする体は、どうやらエネルギー切れらしい。
「あ、寝る?いいよ、私別の部屋で仕上げるから。電気消して行こうか?」
すると慌てて鞄を持って立つ南はどうやら気遣いスイッチが入ったらしく、個人車両のドアに手をかけた。
「いえ、そこまでしなくても───」
「駄目だよ、休める時に休んでおかないと。私は内勤に戻るけど、アレン達はまた次の任務があるでしょ」
「でも、」
「大丈夫、トマさんに居場所伝えておくから。じゃ、おやすみ」
言いたいこと言って、呆気なく車両を出ていく南。
気遣う姿は教団内での南と変わらないけど…今は同じ任務をこなして、状況はオレ達と変わらないはずなのに。
そうやって周りばっか気にして。
今回は、なんとなく見過ごせなかった。
「ラビ?」
「ちょっとトイレ。アレンは先に寝てろよ」
軽く片手を挙げて車両を出る。
「…ラビ、」
「?」
アレンに呼ばれて視線だけ向ける。
にっこり笑った顔は、いつも通りだったけど。
「しっかり、見ていてあげて下さいね」
…しっかり、バレてら。