第31章 溢れ落ちる
「はい、はい。残りは帰って報告書を上げますので。それでは、失礼します」
チン、と受話器を置く音。
コムイに報告を終える姿を確認して、壁に凭れていた背中を離す。
「報告終わったさ?」
「うん、」
「列車、あと15分程らしいさ」
「そっか」
デンケ村から一番近い、小さな駅。
其処にある電話機の前で振り返った南の肌には、所々手当ての跡が見えた。
村の大人達は相変わらず冷たかったけど、子供達だけは違った。
一緒に遊んだ南のことを按じてくれて、お陰で村で最低限の手当ては受けさせてもらえた。
「アレンとトマさんは?」
「アレンは空腹で撃沈中。トマは切符売り場」
指差した先にベンチで横倒れているアレンが見えて、南が僅かに苦笑する。
「ここ三日間、大したもの食べてないからね」
そう言って、あの儀式のことを思い出したのか。
不意にその表情が陰る。
村の真相は全てコムイに報告した。
断言はできないけど、部外者にも手を掛けていた行為だ。
犯罪と言えば犯罪。
遅かれ早かれ、近くの政府の手が掛かるだろう。
どう対処となるかわからないけど、それであの子供達も多分救われるはず。
「そうだ」
不意に顔を上げた南がアレンに歩み寄る。
「アレン」
「はい…?」
「これ、あげる」
力なく上げた顔の前に、差し出したのは小さな袋。
「多くはないけど、ないよりマシでしょ?」
「…木の実ですか?」
「うん。村の子達が、別れ際にくれたの。お礼にって」
「お礼?」
中に入っていたのは赤い木苺。
「…クロル君のお礼。ありがとうって」
ぽつりと漏れたその名前に、アレンの手が止まる。
村の子供達は、普通に黒い影とも触れ合っていたらしい。
無垢な子供達にとって、霊も友達と同じだったんだろう。
南が見た子供の霊が、成仏できたかはわかんねぇけど…恐らくもう黒い影を見ることはない。
「…大切に食べないとですね」
パンを一口で食べ尽くしていたアレンが、小さな木苺を一粒だけ口に含む。
はにかむその顔に、自然と南も笑っていた。