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科学班の恋【D.Gray-man】

第30章 失いたくないもの



不意に空気が漏れるような掠れた音を聞いた。

途端、



「かはッ…げほっ」



咳き込む声。
それは紛れもなく南の口から。



「南さん…!?」



上がる、アレンの声。
一瞬、止まったオレの周りの時間が動き出す。



「南っ!」

「は…ッラ、ビ…?」



頭を抱いて見れば、浅く呼吸しながらその目は確かにオレを映した。
途切れ途切れに名前を呼んで、見上げた顔が力なく笑う。



「AKUMA…倒、した…?」



…AKUMAより自分の心配しろよ。
ついそう漏らしそうになった言葉を飲み込んで、頷く。



「ああ、南のお陰さ」



南の機転で、AKUMAに隙ができたのは事実。
本心でそう言えば、南は本当に嬉しかったのか。
ふわりと柔らかい笑みを見せた。



「…よかった」



心底安心した柔らかい笑み。
その顔に、胸がぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。

…そんな嬉しそうにすんなさ。
もっと自分の心配しろよ。



「…南はほんと、アホさ」



衝動のまま目の前の体を掻き抱く。
言いようのない気持ちが溢れて、止められなかった。

南を失ったかもしれないと思う気持ちと。
確かに、この腕の中にいるんだという実感に。

───離したくない。

そう強く思った。



「っ…ラビ、」



それを止めたのは、腕の中の南だった。
くぐもった声で、ぽつりと零れる言葉。



「…胸、痛い」



───そうだ。



「悪いっ」



慌てて体を離して怪我を改めて見る。
出血はあるものの、どうやらAKUMAの爪は浅い場所で止まっていたらしい。

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