第30章 失いたくないもの
抱きとめた体は想像以上に力がなく、一瞬オレを呼んだように思えた声はすぐに聞こえなくなった。
「南!」
その胸に突き刺さっているAKUMAの爪を引き抜く。
場所は正確に心臓の位置を突き刺していて、じわりと服に染みた赤が広がった。
嘘だろ。
「ラビ!南さんは…ッ」
「南、目ぇ開けろって…!」
顔に手を添えて覗き込む。
オレの声に、南はピクリとも反応しない。
「なぁ、南。なぁって。おい…!」
声が震えそうになる。
やめろよ、そういうの。
目を開けろって、寝てんじゃねぇさ。
「───ラビ!」
唐突に強い力に引っ張られる。
オレの襟首を掴んだアレンが、険しい顔をしていた。
「しっかりして下さい!とにかく、怪我を見ないと!」
その言葉にハッとする。
最悪の状況を想像して、思考が止まってしまっていた。
何やってんだオレは。
「ウォーカー殿!椎名殿は…っ」
「トマさん、救急箱を。早くっ」
頭の隅で二人の会話を聞きながら、寝かせた南のシャツを破く。
見えた胸元は真っ赤で、下着まで染め───
ゴチンッ!
「ッ!?」
唐突だった。
頭を割る勢いで、硬い何かが頭に衝突したのは。
「っ、っ~…!!」
「テ、ティムっ!?何やって…っ」
思わず頭を押さえて蹲れば、焦るアレンの声が聞こえた。
あのゴーレム…またかよ…!
状況が状況なだけに、流石にカチンときて鉄槌を握る。
「この…っ邪魔すんなさ!!」
「ガァアアアッ」
怒鳴りつければ、南の胸元に降りたティムが強く鳴く。
まるで触らせまいとするように。
何やってんさ、このゴーレムは。
「アレン、このゴーレム壊していいさ?」
「わーっ!待って待ってラビっ!」
鉄槌を振りかぶれば、後ろからアレンに羽交い締めに止められる。
いや、壊す。
邪魔するなら絶対壊す。
一刻も早く、南の手当てしなきゃなんねぇのに…!
「…ひゅっ」
…………ひゅ?