第29章 人形劇の果てに
任務に出掛ける際、持っていけと科学班の皆に渡された色々な道具。
その中に混じっていた、確かこれは…
───そうだ。
「ん、の…っ」
「あラ。何シテんの?コマドリちゃん」
必死に逆さ吊りのまま、ズボンのポケットに引っ掛かっているその小瓶を掴む。
キョトンとこっちを向いたAKUMAに、唯一自由な手で小瓶の蓋を開けると。
「私は…っ駒鳥じゃない!」
渾身の力で、間近なAKUMAの口にずぼっと小瓶ごと突き入れた。
「え。」
「うわ。」
その行為に唖然としたのは二人のエクソシスト。
そして。
「げふっ。あらヤダ、飲み込んじゃったワ」
口に小瓶を突っ込まれた、AKUMAも同様に。
…え?
「味はイマイチね。ワタシ、美食家だから脳味噌以外嫌いナノ」
「え、いや……ええっ!?」
AKUMAに化学薬品って効かないの!?
呆気無く薬品を飲み込んだAKUMAが、飄々とこちらを見てくる。
ま、まずい。
「馬鹿ねェ、コマドリちゃん。イノセンス以外のモノが、ワタシに効くわけないデしょう?」
「っ…!」
不意にぎょろりと、AKUMAの目玉が剥き出しになる。
そんな。
科学班が作った武器に、多少なりともAKUMAに効果あるものもあったから。
この激薬なら効くと思ったのに…っ
だってこれ、あのコムイ室長が作った薬だし!
「反抗的な人形は嫌イよ」
ガパリと、不意にAKUMAの腹部が大きく口を開いた。
鋭く尖った歯が羅列して見える。
まずい。
食われる。
ゾクリと、背筋を凍らせた時。
───ピキッ
何か亀裂が入るような音を聞いた。
「…ア…?」
ピキ、ピキ、
AKUMAの動きが不意に止まる。
「ナ、に…っ」
ピキピキと、AKUMAの体中に走っていく亀裂音。
同時に、ぷつぷつとその体中から血管が膨れ上がる。
「ナニ、した、の。コマドリちゃん…」
ギギ、とぎこちない動きでAKUMAの目が私に向く。
これって…まさか、効いてる?
「っ!ラビ、アレン!」
驚いたけど、今はそれよりも。
咄嗟に二人に呼びかける。
「今なら…!」
討てる。