第29章 人形劇の果てに
「全く、本当にタチの悪いAKUMAですね」
「アレン…っ」
アレンとAKUMAの間の盾になるように降り立つ。
そんな私越しにAKUMAを睨んで、アレンは大きく後ろに左腕を構えた。
「多少荒いですが、我慢して下さいね」
その目が一瞬私を見て微笑む。
こんな時まで普段の紳士な姿勢を崩さないでいてくれるアレンに、申し訳なさが募る。
アレンの指に王冠のようなシルエットの弾が浮かび上がる。
と、ガガガガ!!と放たれた王冠型の弾が正確に私の周囲に打ち込まれた。
「び、吃驚した…」
よかった、一発も弾は当たってないみたい。
内心冷や汗を掻きながら、ホッと安堵して腕で額の汗を拭う。
……ん?
あれ、私の腕…普通に動いてる?
もしかして今の攻撃…糸を狙って切ってくれたの?
「ア、アレン!切れた、糸!ありが───…わぶっ!」
「あらヤダ!そうやってすぐワタシの人形を壊すの止めなさいヨネ!」
「南さんっ!」
歓喜の声を上げて伝えようとすれば、未だ絡みついたままの足の糸が後ろに強く引っ張られる。
お陰で思いっきり後ろに滑った体は、地面に顔を強打。
い、痛い。
「もー、手の早い男ってやあねェ、コマドリちゃん」
「ぃ、痛…顔、痛い…」
足を引っ張られてるものだから、逆さ吊りでAKUMAの顔の横まで持ち上げられる。
今それどころじゃない、顔痛いから。
顔面強打したから!
「ッ誰かを盾にしないと、戦えないんですか」
「これは立派な作戦ヨ?文句は勝ってから言いなサイな」
「っぐ…ッ」
ズ、とAKUMAの爪がラビの肩から引き抜かれる。
吐き捨てるアレンの言葉もAKUMAの意思を揺さぶる程のものではないらしい。
私の真横でにんまりと笑う大きな裂けた口。
嫌だ、こんなの。
足手纏いになってるだけじゃなく、私が二人を邪魔してる。
どうしよう。
どうしたら───
「っ…?」
強打した顔を両手で覆ったまま必死に思考を巡らせていると、逆さ吊りにされて捲れた自分の服。
ズボンのポケットから、不意にそれが覗いているのが見えた。
"科学班の作るもんって、変なもんばっかだからさー"
思い出す。
ラビが怪しげな目で取り出した、あの小瓶だ。