第29章 人形劇の果てに
「南さん、じっとしてて!」
「動くなよ、当たるさ!」
視界にそれぞれイノセンスを振るう二人の姿が見えて、私は咄嗟に自分の顔を庇うように両腕で覆った。
ドッ…!
衝撃音。
攻撃の圧でぶれる視界に、腕の隙間から垣間見えたもの。
アレンの左手で体を砕かれ、ラビの鉄槌で頭を潰されるAKUMAの姿。
「ガ、ふ…ッ!」
鈍い悲鳴を上げて、AKUMAの体がカッと光る。
それはAKUMAが消滅する時の光。
やった、倒した…っ?
眩い光の中、潰れたAKUMAの顔が、一瞬。
こちらを向いた気がした。
ドッ…!
衝撃音。
攻撃の圧でぶれる視界に、映ったのは。
「───え」
左胸に突き刺さる、長く鋭い爪。
これ…私の………胸?
「南…ッ!」
糸が切れた人形のように頭から落下する。
ドサリと衝撃は柔らかく、誰かに抱きとめられた。
見えたのは、赤く映える髪。
「…ラ、ビ」
一体今回の任務で何回、この腕に庇ってもらったんだろう。
そんなことを漠然と思いながら見上げた顔は、ここ最近見た中で一番酷い顔をしていた。
───ばいバイ、コマドリちゃん
脳裏を掠めたのは、クロル君が死ぬ間際に聞いた
あのAKUMAの笑い声だった。