第28章 AKUMAと悪魔
「さ~あ、おいでェ。コマドリちゃん」
「は!?な…っ!」
両手を広げ、迎え入れるAKUMAにまるで誘われるかのように、体が引っ張られて宙に浮く。
「椎名殿!」
あっという間にトマさんが遠くなる。
視界が揺れた途端、ぎしっと体に巻き付く強いその存在に気付いた。
これ、さっきAKUMAが飛ばしていた糸…!?
「折角殿方が二人もデートしてくれテルのに、女性が一人じゃ味気ないデしょう」
引っ張られた体はAKUMAの腕に捕まり動きを止める。
至近距離で見るその顔は無機質な機械のようなのに、得体の知れない殺気を感じてぞっとした。
「は、放して…ッ!」
「こらこら、暴れナイの。女同士なんダカラ仲良くしまショ?」
というか女性なのこのAKUMA。
雌?♀?
AKUMAに性別あるんですか。
「顔はチョット物足りないケド、まァ。ワタシの引き立て役にはなってクレルかしら」
「んな…ッ」
確かに私は美人の部類じゃないけど。
ピエロみたいな奇妙な顔のAKUMAに、駄目出しされたくありません!
「物足りないならデートは一人でお願いします!」
「ツレナイわね、ダブルデートしましょうヨ」
嫌です、絶対。
でもどんなに必死に暴れても、AKUMAの顔は涼しくどこ吹く風。
「大丈夫よ。デートが終わったらチャーんと、味わってアゲルから」
「っ!?」
裂けた大きな口からAKUMAの長く赤い舌が垂れて、ぬるりと頬を舐められる。
ぞわっと全身に鳥肌。
き、気持ち悪い…!
ゴッ!!
刹那、私の体を掴んだままAKUMAが跳び退く。
激しい打撃音は同時に、AKUMAのいた場所に叩き付けられていた。
「…放せよ。南に手ぇ出すな」
低い声。
AKUMAがいた場所には巨大化した鉄槌がめり込んでいて、声の主が攻撃したんだとすぐにわかった。
「あラあラ、女子同士がじゃれテる時は黙って見守るモノよ」
飄々と応えるAKUMAを見据える片目の翡翠色は、鋭く。
普段見たことのない殺気を帯びた目に、思わずぞくりと背中が粟立つ。