第25章 駒鳥回り
ひんやりと深く冷たい地下室。
訳もわからず連れて来られて、それを"儀式"と彼らは言った。
ぐるぐる周りを取り囲む大人達。
それぞれが口ずさむのは、駒鳥の歌。
"お祈り"だと称して、掲げられたのは大きな刃物。
ごめんなさい
ごめんなさい
何が悪いのかもわからない。
けれど、きっと何かしてしまったんだ。
だって皆、あんなに優しかったのに。
一緒に助け合って、暮らしてたはずなのに。
おねがいだから
ころさないで
それを"儀式"と彼らは言った。
すまない、と申し訳なさそうに謝罪して。
振り下ろされたのは、大きな刃物。
ざくりと肩に食い込む刃に、肉が断ち切れ鋭い痛みが刺した。
し に た く な い
恐怖したことは、ただ一つ。
切望したことは、ただ一つ。
その気持ちに突き動かされるままに、何処ともわからない暗い闇の中逃げ出した。
追いかけてくる無数の足音。
見つからないように、体を丸めて逃げ込んだのは岩場の隙間。
ひゅーひゅーと自分の息だけが、喉奥で木霊する。
どうか、みつかりませんように
カタカタと震える体を押さえつけて、ただ必死に祈った。
誰でもいい。
誰でもいいから、助けて。
キリキリと空腹が痛む。
血が溢れる肩から、どくんどくんと痺れた感覚が広がっていく。
暑いような寒いような、そんな感覚さえ麻痺した頃。
いつの間にか外は静寂に包まれていた。
どうか、みつかりませんように
何度も何度も心の中で復唱しながら、恐る恐る隙間に顔を寄せる。
神様でも死神でもなんでもいい。
此処から生きて出してくれるのなら。
どうか、みつかりませんよう───
ふっと、隙間の入口に一つの影が差す。
見上げた先。
隙間いっぱいに埋め尽くされていたのは、ぎょろりと開いた目玉が二つ。
骨のように真っ白な肌に、にんまりと笑う赤く裂けた口。
みィつけた
最期に見たその顔は。
ばいバイ、コマドリちゃん
まるで、悪魔のようだった。