第25章 駒鳥回り
「遊ぶって…」
「駒鳥回り」
そんなことしてる暇はないのに。
縋るように私の腕を掴むクロル君から、目が離せない。
「遊んでる時は、みんなぼくを見てくれる」
駄目だ。
駄目、頷いたら。
頭のどこかで、なんとなしに警告が鳴る。
なのに。
「おねえさんも、ぼくを見てくれたから。…ひとりぼっちじゃない」
きゅっと、クロル君の小さな手が私の手を握る。
ひんやりとした驚く程冷たい手。
…ここは寒くて冷たい。
クロル君が嘆くように言っていた言葉に、不思議と納得した。
「…いいよ」
自分でも、なんで頷いてるのかわからなかった。
遊んでる暇じゃないのに。
でも。
寒くて冷たい、真っ暗な地下深く。
こんな所にひとりぼっちでいる彼を、置いていったら駄目だ。
駄目だって言われた彼を私まで否定したら、あの人達と同じになってしまう。
…"あのひとたち"?
「じゃあ、おねえさんが駒鳥役」
ふと浮かんだ疑問は、考える前にクロル君の嬉しそうな声で掻き消された。
「ぼくがずっと駒鳥だったから、嬉しい」
濁った目で笑うクロル君は、あの無表情さが消えていた。
こんなふうにこの子も笑えたんだと思うと、胸の奥がきゅっとした。
「座って。目を開けたらだめだよ」
「うん」
言われるままに部屋の真ん中で屈み込む。
俯いて両手で自分の顔を隠す。
駒鳥回りは、かごめかごめと一緒の遊び。
駒鳥役が真ん中で目隠しして、周りを取り囲んだ人がぐるぐる駒鳥の周りを回る。
真正面は雀。
右側は蝿。
左側は魚。
そして真後ろは、わたしを食べたあなた。
あなたを当てないと、駒鳥は食べられて負ける。
そう子供達に教えてもらった。
…あれ。
でもこれって、二人だけでできる遊びだったっけ?
「だぁれがこまどり、ころしたの」
ふと浮かんだ疑問は、クロル君のか細い歌声に掻き消された。