第85章 そして ここから
「…同じ言葉を、返してもいいですか?」
「ん?」
「とても、班長らしいと思います」
それこそ私には真似できない。
班長だからこそ、口にできるものだ。
「同じダグ君を見ていても、私はそんなことを言えなかった。班長らしくて、凄いなって思います。真似、できないなぁって」
「だからいいんだろ?俺も南の姿勢を例え真似たって、南の心にはなれない。…お前の心だったから、ダグも手を伸ばしたんだろ」
無意識のうちに、胸の前で片手を握る。
夢のような曖昧な世界線で、擦れ違ったダグ君の魂。
もういいよ、と泣きそうな声で告げた見えないあの手を、握った感覚はなんとなく憶えている。
冷たいだとか、温かいだとか、そんな感覚なかったのに。
何故だか私の心に残り続けている感覚だ。
きっと、忘れることはないんだろう。
…それが、意識の奥底に灯して、共に連れていくってことなのかな。
「おいリーバー!南!お前ら何其処でぼさっと突っ立ってんだ!?早く来いよ!」
「そうっすよォ!早くしないとまたコムイ室長に見つかっ」
「僕がなんだって…?」
「げッ!室長!?」
静寂にも近い空気を突如跳ね飛ばしたのは、少し離れた場所にある建物の扉から顔を覗かせた、ジジさんとジョニーだった。
更にはその後ろからにょきりと…巻き毛の眼鏡男が。
うわ。
「また僕を除け者にしようとしてたのかい?へぇ~??また???教団で一番偉い????この僕を?????」
「やっやだなぁ室長!サプライズですよ!皆で酒場を用意して、室長を呼んで驚かせようって!やっぱ科学班の主役は室長っスから!」
「そ、そうそう!だから見つからないようにって」
「そんな言葉に騙される程、僕頭悪いつもりないけどネーはいコムリン発動しまーす」
「ばっやめろぉおぉぉおおお!!!!」
「なんでいつもそんなもの持ち歩いギャー!!!」
青褪めたジジさん達の顔が引っ込んだかと思うと、悲鳴と硝子が割れるような音が一瞬だけ……うわあ。
「……リーバー班長」
「なんだ」
「あそこ、行かなきゃいけないですか?」
「言うな。俺だって逃げたい」
あ、班長も逃げたいって思うことあるんだ。
珍しい。