第85章 そして ここから
「新ラボ、どんな感じでした?」
「ああ、前より広くなった。横に面積の広い敷地に移ったからな」
「それは助かりますね。資料を選ぶ度に高い梯子を使わなくていいなら」
「それでよくジョニーが資料の重さに潰されかけてたか…」
「ありましたねぇ」
真っ白な世界を二人、リーバー班長と並んで歩く。
太陽はないのに、眩しくも感じる光の世界。
…なんだか、あの時の世界に似てるな…。
失くした仲間達を追い求めた時の、幻想の世界と。
「お別れ、してたのか?」
「え?」
「クロス元帥が言ってただろ」
お別れ…と言えば、確かにお別れだけど。
「お世話になった職場だから、挨拶してただけです。建物に向かって挨拶なんて、ちょっと、可笑しいかもしれないけど」
「そうか?」
たははと笑って言えば、班長は合わせて笑いはしなかった。
「お前らしいと思うけどな。残してきたもんに、目を向け続けるところとか」
あ…やっぱり、班長にも気付かれてしまってたみたいだ。
ラビも班長も、こういう洞察力高いからなぁ…。
「残してきたものはあるけれど、でも、その欠片はここにありますから」
「欠片…か?」
「はい」
あの黒の教団で、失くしたものは多い。
でも同時に、その中でしか手に入らなかったものもある。
死と隣合わせの職場で、私が見たもの。触れたもの。感じたもの。
経験したもの全てが、今の私を創ってくれている。
この背を押して、この心を育ててくれたのは、あそこで培ったものが在ったからだ。
「それは、私の心を育ててくれた一部なんです。切っても切り離せないから、一緒に連れていくんです」
クロス元帥の受け売りだけど。
今はそうはっきりと言い切れるから。
笑って告げれば、リーバー班長の薄いグレーの瞳がぱちりと瞬いて、それから優しい色を灯した。
「連れていく、か。…南らしいな」
「そう、ですか?でもそう思えるようになったのも、受け売りで…」
「考え方が、じゃない。その姿勢だ」
姿勢?