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科学班の恋【D.Gray-man】

第85章 そして ここから



「今回はお前ら番犬に譲るが、良い酒が手に入ったら今度は俺につき合えよ、南」



拗ねるように口を尖らせるラビとは反対に、涼しい顔で笑う元帥の目が私に向く。
命令口調だけど、音色は優しい。
大柄な体は圧巻だけど、威圧は感じない。

最初こそ社交辞令のように受け取っていたけど、今なら元帥と二人でお酒を酌み交わすのもいいかなって思える。



「そうですね…お酒は別としても、またクロス元帥と二人でお話したいです」



私の知らない高さの目線で物事を見て、私の知らないものの捉え方ができる人だから。

二人で、という誘いを受けたのは初めてだったからか、隻眼の鋭い目がちょっとだけ丸くなる。
やがてその目が優しく細まると、保管室で見せてくれた表情で、元帥は微笑んだ。



「南が望むなら」










「はぁ…本当、場所は変わってもなーんも変わんねぇさな、あの元帥は」

「元帥に変われって言う方が無理だと思うなぁ」

「言えてら」



騒ぐ科学班を素通りして、方舟ゲートを通って消えるクロス元帥の背中を見送る。



「それで、ラビは?」

「ん?」

「新しい部屋。移ったばかりだし、ブックマンに何も言われたりしてないの?」

「あー…荷解き手伝えとは…」



やっぱり。
隣を見上げれば、げんなりと肩を落とすラビがいた。
ラビとブックマンの荷物は、私が知るだけでも結構な量だった気がする。
部屋を埋め尽くすくらいの、新聞の束や分厚い書物や書類の山。
ほとんどがブックマンとしての記録の紙媒体、なのかな。



「じゃあ行かなきゃね。呼んでくれてありがとう」

「…大丈夫さ?」

「うん。大丈夫だよ」



普段はおちゃらけてることが多いラビだけど、他人の顔色をすぐに察知して気遣えるのは、観察眼の鋭い彼の特技だと思う。
一瞬でも保管室で見せてしまった私の素顔を、きっと気にかけてくれてるんだ。
だから笑顔で返す。
さっきまでの蟠りは、もうないから。

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