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科学班の恋【D.Gray-man】

第85章 そして ここから



✣ ✣ ✣ ✣



先頭に立って保管室を出ていく南は、迷う足取りをしていなかった。
これなら大丈夫そうだと、クロスも最後に保管室の扉を跨ぐ。

出ていく際に、今一度保管室の天井の隅をちらりと横目で見上げた。
ただの煤染みのようにも見える黒い汚れは、しかしただの煤ではない。
そこにひっそりと息衝いている"もの"は、南が思いを馳せる仲間達とは違うものだ。
それでも同じにこの教団で命を落とし、居場所を求めているもの達だと、クロスは知っていた。



(あれは消せんな…)



つい数週間前に、同じ類のものがコムイの薬を使って教団内を暴れ回った。
その際に有象無象のように塊を成して恨みを晴らそうとしていた霊体達は、大半が消え去った。

それでも未だにこの地に未練を残しているものもある。

消えるものは消え、残るものは残る。
亡者の行く末など、現世で生きている自分達がどうこうできるものではない。
その証拠に、南の傍に憑いている微かな影が一つある。
南に害を成してはいないと判断した為放っておいたが、クロスの目だけが捉えられるその影は、明らかにこの世のものではなかった。



(悪意は、どれもなさそうだが)



天井の隅に住まうものも、南に憑いているものも、敵意は感じない。
ならば辺り触らず。
わざわざ情を向ける必要もないと、クロスは彼らから視線を外した。



「…なぁ」



視線を戻せば、胡散臭そうな表情のオレンジ頭が出迎える。



「本当にこの扉、開かなかったんさ?」

「何寝惚けたことを言ってる。現にお前も開けようとして苦戦してただろう」

「でも結局ティムが簡単に開けたじゃねぇか。…わざと開かないフリしてたんじゃねぇの?」



どうやらラビは、クロスが南と密室に残る口実の為にやったのではないかと疑っているようだ。
じろじろと見てくる表情には、ありありと不満が募っている。
多少子供染みた態度は緩和したかと思っていたが、あまり変わっていなかったらしい。



「お前じゃないんだ。南との逢瀬に、わざわざそんなまどろっこしいな理由などつけん」

「余計タチ悪いじゃねぇかッ」



やれやれと肩を落として溜息をつけば、やはりとオレンジ色の頭は噴火した。

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