第85章 そして ここから
変な誤解をされたら、また以前みたいにラビに騒ぎ立てられる。
そう思って弁解しようとすれば、身を起こして無言で歩み寄ったラビに腕を取られた。
「わっ」
と、ふわりと体が浮く感覚。
もう一方の手でクロス元帥の腕の囲いを解いたかと思えば、易々と私の腕と胴を掴んで元帥の膝の上から離す。
そのままラビの背中側に、隠すように下ろされた。
「そういうのは本人の同意を得てやるもんさ」
「ほお?」
…あれ?
以前は騒ぎ立てていたラビなのに、驚く程その声は冷静だった。
というか元帥の腕を易々と解くなんて…元帥も本気で囲ってた訳じゃないだろうけど。
一瞬過ぎて吃驚した。
…なんだか、昔もこんなことあったな…泥酔したリーバー班長に抱き囲われていた時も、ラビに助けて貰ったっけ…。
「俺が同意を得ていないと?」
「今の南の態度で答えは出てるだろ。上手いこと言って丸め込むのは止めて欲しいさ。南は変にお人好しなとこあっから」
「お、お人好しって…」
思い出に思考を寄せていたら、なんだか聞き捨てならない言葉を聞いた。
その言い方、なんだか間抜けっぽいからやめて…。
「それより。扉の建付けが悪かったみたいで、私達は一時的に閉じ込められてただけだから。ティムがラビを呼んでくれたの?」
淡々とクロス元帥に告げる声は冷静だけど、伝わる気配は穏やかじゃない。
元帥は薄らと笑っているけれど、背中を見せるラビからは冷たい声しか届かないし。
慌てて話を逸らそうと話題を振れば、元帥と同じ隻眼がこちらを向いた。
元帥と違うところは、はっと見張るような綺麗な翡翠色だということ。
「本当さ?」
「ほんとほんと」
「…連呼されると胡散くさ…」
「本当だってば。それでティムに誰かを呼んで来て貰うよう頼んだんだから」
「確かにティムに呼ばれたけど、そもそも南を捜してたんさ」
「私を?なんで?」
「科学班の所に行っても南だけいねぇからさ。…ねぇな」
「?」
「じっとしてろよ」
「んっ?」
あちこちポケットに手を突っ込んで何かを探していたかと思えば、諦めた様子で伸ばした袖を目元に押し付けられた。
な、涙は流していないはずだけど。
目元が滲んでたの、かな。