第85章 そして ここから
すん、と小さく鼻を啜る。
涙は零れ落ちなかったけど、微かに震えてしまう体を、ずっと元帥は抱きしめてくれていた。
触れるだけの優しい包容で。
それが心地良くてつい身を預けてしまっていたけど、心が落ち着いてくれば羞恥心も出てくる。
「あの…元帥」
「ん?」
「お胸、お借りしてすみません…もう大丈夫、ですから」
「謝るな」
「っぷ」
「言っただろ。俺の好意は利用するだけ利用しろ。それが南の特権だ」
離れようとすれば、今度はぽすりと頭をその胸に押し付けられた。
たかが科学班の平団員である私が、元帥の胸を借りるなんて。
そんな私の姿勢なんて、元帥には易々と見破られているんだろう。
大きな手が、構うなと言うかのように私の頭を撫でる。
子供扱いされてるようで羞恥心はまだ残っていたけど、それ以上になんだかこそばゆくて…心地良くて。
離れる理由が見つからなくて、結局また身を預け───
ガンッ
体がびくりと跳ねる。
急な鋭い打撃音は、締め切っている扉の外からだった。
ガンッ
ガンッ
何度も何度も伝わる打撃音に、思わずクロス元帥の腕の中で身を竦める。
な、何?
まさか敵襲とかっ?
「げ、元す」
『南!』
───あ。
『此処にいるのか!?っクソ、なんで開かないんさ…!』
この声、は。
「ラビ…!」
敵襲なんかじゃなかった。
ガチャガチャと取っ手を回しながら外から呼びかけてくる。
この声、間違いなくラビだ…!
ティムが呼んでくれたのかなっ
『っ…南!この声が聞こえてたら扉から離れろ!頭守ってろよ!!』
「え…っま、まさか」
なんか嫌な予感がする。
迷いのないラビの声に、更にクロス元帥の腕の中で身を竦ませる。
もしかしてあの扉壊す気なんじゃ…!
「待ってラむッ!?」
それは困る。
ラビの鉄槌を使えば、下手すれば保管室が破壊されてしまうかもしれない。
いずれ取り壊されるにしても、今ここで職場を壊したくなくて慌てて止めようと声を上げれば、口を大きな手で塞がれた。
見上げれば、元帥の手が私の口を塞いでいる。
な、なんで?