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科学班の恋【D.Gray-man】

第85章 そして ここから



リーバー班長やジョニー達、科学班の仲間。
ラビやアレンやリナリーや神田達、エクソシストの仲間。
共に生きてくれている皆のお陰で、前を見ることはできた。

だけど偶に、何もないところで振り返ってしまう自分がいる。
そこに誰もいないことなんて、わかっているのに。
背を押してくれた彼らの鱗片を、きっとまだ感じていたくて。

私の足は、まだこの古い地に縫い付けられたままだ。



「そりゃそうだ」

「え?」



そんな沈む私の心に、落ちてきたのは拍子抜けしそうな程、飄々としたクロス元帥の声だった。



「お前さんが長年共に生きてきた仲間だろう。その仲間を失った哀しみは、そう消えやしない。だが薄れてはいく」

「………」

「そうして俺達は、幾人もの心に留めていた者達を"過去"にして、生きていくんだ」



イノセンスとの同調率が臨界点を突破した者が、"元帥"という位を持つことができる。
だけどこの人は、その実力だけじゃない。
コムイ室長ですら知らない顔を持った謎多き人で、きっと私なんかじゃ辿り着けないくらいに、エクソシストとして科学者として、また人として、色んな"過去"に触れてきた人。

…アニタさんの死だってそう。

元帥の大切な女性だったと言われていた彼女は、AKUMAの襲撃により果敢に戦い、そして命を落とした。
だけど元帥がアニタさんのことで過去を振り返る姿は、一度だって見たことはない。
元帥格の人が一科学班の私にそんな姿を見せないのは当然かもしれないけど、どことなく哀愁はあるのに自分の弱さは一切見せない人。

そんなクロス元帥の言葉には重みがあって、反論なんてできなかった。



「身を切り裂いたことも、哀しみに打ち拉がれたことも、いつしか思い出となり、過去となり、記憶の断片となる。そしてやがては意識の底に埋もれてしまう。それが人間だ」



…わかってる。
リーバー班長も、同じことを言っていたから。

だから、その抗いようのない事実が哀しい。
私はクロス元帥のように、当然のものとして、まだ受け入れられていない。



「だがな、南」

「…え?」



まさか、そこにそんな呼び掛けが入るなんて思いもしていなかった。
つい下がってしまっていた目線を上げれば、私を見ていた隻眼は厳しい光を放ってはいなかった。

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