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科学班の恋【D.Gray-man】

第85章 そして ここから



「お疲れ、ですか?」



そっと問い掛ければ、間近にある隻眼がちらりと向く。
かと思えば視線を外して、また溜息をついた。



「疲れてるのは俺よりお前さんだろう。科学班はぎりぎりまで仕事と引っ越し準備に追われていたと聞いたぞ」

「え、誰から」

「コムイ」

「…わかってるならなんで仕事しないかな、あの人は…」



誰かさんが仕事サボるから、こっちがフォローで走り回る羽目になるのに。
最後までリナリーの新居に飾るコムイ室長そっくりなグッズばかり作ってて…あれを新本部に運ぶだけでも一苦労だった。
というか個人的な荷物を科学班の荷物と一緒にしないで欲しい。



「新本部(向こう)で見かけた科学班連中は、いつものように汚い顔をしていた。大方南も、残業漬けだったんだろう」

「汚い顔って」

「なのにこんな所で一人歩き回っていたら、弱みにつけ込まれるぞ」



弱み?



「なんですか、それ」



首を傾げれば、元帥の目は私ではなく暗い天井の隅に向いた。
部屋の角は保管室の小さな電球じゃ光が届かないから、常に薄暗い。



「南みたいな人間が好きな連中だ」



好きな連中…?



「?」



やっぱり意味がわからなくて更に首を傾げれば、何故か大きな手でぽむぽむと頭を撫でられた。
え、本当に何。



「まぁ南の場合、自分の意志で此処へ来ていたんだろうが」



だからなんのことですかそれ。
…確かに自分の意志だけど。



「別れが惜しいか?」



一体なんのことを言っているのかと理解不能だったのに、急に振られた問いにどきりとする。



「それはまぁ…何も感じないと言えば、嘘になります。長年住み込みで働いていた場所なので」

「場所もそうだが、違うな。それ以上に南が心残りにしていることが、別にあるだろう」



心の奥底を、見透かされたような気がした。



「だからつけ込まれるんだ」

「…だから、なんですかそれ…」



元帥ともあろう人が意味深なことを言えば、軽くは流せない。
でもそれ以上にやっぱり見透かされている気がして、気付けば小さな溜息が漏れていた。

この人の前では取り繕いなんて、意味を無さない気がする。

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