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科学班の恋【D.Gray-man】

第85章 そして ここから



私の掌は、よく見れば皮膚の色が少し違う。
掌の皮膚は何度も再生を繰り返して、薄くなってしまった。

本部襲撃事件の時に、掌に酷い火傷を負ったから。
…タップの体を燃やし尽くした、炎で。

医療班が付きっきりで治療してくれたお陰で、色以外はほとんど変わらない状態になった。
今では物書きや食事、手先の運動は前と変わらずできる。
偶に、皮膚が攣るような感覚はあるけど。
本当に偶にで、少し引っ張られるくらいの感覚だから何も問題はない。
だから私自身、掌の色が違うくらい、あんまり気にしてない。



「勿体無い」



気にしては、いないんだけど。
クロス元帥はそうじゃないみたいだった。



「そんな、これくらい。よく任務先で怪我を負ってくるエクソシストの皆に比べたら」

「傷に大きいも小さいもない。それは南自身がよくわかっているだろう?」

「……それは…」



…クロス元帥の言う通りだ。
だから、大したことはないと怪我を負っても平然と笑うラビ達の顔は、余り好きじゃなかったんだっけ…。

尤もな言い分に、返す言葉がない。
言葉に詰まってしまった私を察したのか、クロス元帥はやがて静かな吐息を一つ。



「そろそろ勘付いた鴉が嗅ぎ回り始める頃か…足がつく前に、ずらかるとするかな」



その一つだけで、空気が切り替えられる。
きっと言葉に詰まった私の為だ。
握っていた手を放して自然に振る舞う元帥には、意図的な思考なんて見えない。
アレンはクロス元帥の悪口をあれこれよく言うけど、出来た人だと思うな…やっぱり。



「南はどうする。まだ此処に残っておくのか?」

「あ、はい…そうですね。元帥のことをしっかり新本部までお見送りしたいところですが」

「まだ信用されていないか」



だってずらかるって言ったじゃないですか。
それ、新本部に戻る気ないですよね。
そのまま、また何処か遠くの国に逃げ出したりしないですよね。
そんなことしたら怒りますよ、色んな人が。

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