第85章 そして ここから
「半分は褒め言葉ですけど、半分はご忠告です」
「ほお?」
「元帥と此処にいることが中央庁にバレたら、怒られるの私ですから」
「自分の為か。言うようになったな」
「当然です。身に覚えのない罪を被らされるなんて嫌ですよ」
あの誰にでも紳士なアレンが、超絶毛嫌いして時に悪夢に魘されるくらいクロス元帥にトラウマを抱えてるのに。
それ程、借金やらなんやら、罪を被せられてるのを見てるから。
女性にはそういうことしないかもしれないけど、ちゃんと防衛はしてないと。
「だから戻りましょう。新本部に」
「なんだ。南は俺の散歩がしたいというだけの儚い望みを断ち切るのか?」
「…そういう言い方、狡いですって」
雁字搦めに監視されている元帥の立場も知ってるから、強く言えなくなってしまう。
身内内でも謎が多い元帥だから、中央庁が目を光らせたくなるのもわかるけど…この人は、悪い人じゃない。
酒癖と女癖と金癖が荒いだけで。
それは自然とわかるから。
でも。
「折角新本部で心機一転するのに、出鼻を"クロス元帥脱走の加担"なんて失態で飾りたくないです私は」
「脱走なんて人聞きの悪い。ただの散歩だと言っただろう」
「それが散歩で終わらないのが元帥です」
「言い切ったな」
「言い切りました」
「そこまで心配か」
「心配です」
「なら捕まえていればいい」
「はい捕ま…え?」
「南の手で」
急な毛色の違う返しに、前のめりに忠告していた姿勢が止まる。
上手く返答できないでいる間に、凄く自然な動作で下から掬うように元帥の大きな手が私の手を拾い上げた。
「これなら、俺も逃げられん」
…えっと。
ただ手を握られてるだけなのに、なんだか羞恥を感じて直視できない。
元帥が変に優しい声を出すからだ、きっと。
「少し、残っちまったな」
そんなふうに慈悲ある声で告げられると…え?
なんのことを言われたのか。
一瞬考えたけどそれもほんの一瞬で、すぐに答えはわかった。
直視できなかった元帥を見れば、その目は私の掌に向いていたから。
…やっぱり。