第85章 そして ここから
そういえばゾンビ化事件では、この保管室が凄く役立ってくれたっけ…。
ゾンビ化したラビを神田から守ったり、これまたゾンビ化したアレンを匿ったり…時に私の盾にもなってくれた部屋だ。
中に入って感慨深く感じていると、天井が狭いなと呟く声が後ろから届く。
私にとっては充分スペースのある天井だ。
その隅にシミを見つけて、此処も汚れていたんだなぁと新たな発見を一つ。
なんだか、肩が重い。
「そういえば元帥、此処にいていいんですか?」
「あ?」
振り返れば、やっぱりクロス元帥も保管室に足を踏み入れていた。
此処でゆっくりしてる暇なんてあるのかな。
「ルベリエ長官の命で、新本部に先に滞在してたはずじゃ…」
「そうだな」
「そうだなって…やっぱり此処にいたら駄目なんじゃ」
「生憎俺の仕事は、馬鹿弟子に暇ができてからだ」
「アレンに?」
なんだろう。
でもそれ以上何も言わない元帥に、答えは貰えそうになかった。
アレンと何か、共同作業でもするのかな?
アレン、嫌がりそうだけど…。
「面倒な会議も終わったし、それまで俺は自由なんだよ。と言っても鴉の監視付きだがな」
「鴉?此処には見当たりませんけど」
中央庁お墨付きの警護兵の人達だよね。
特別に訓練された。
その凄い人達、此処にはいないみたいだけど。
「当然だ。俺が監視付きの生活なんて受け入れると思うか?」
「…思いません」
「そうだろう」
元帥のことだから、そういうの一番嫌がりそう。
教団本部に身を置くのだって嫌がるのに。
基本、自由人だよねこの人。
「じゃあ逃げてきたんですか?まさか」
「人聞きの悪い。ただの息抜きだ。大人が散歩するのに、他人の許可も要らんだろう」
「………」
元帥の場合は、要るんだと思うなぁ…。
目を離したらすぐに何処かへ消えてしまいそうな気がするし。
つまり此処へは、その煩わしい監視から逃げてきたってことか。
元帥らしい。
「本当、元帥らしいですね」
つい声にも出してしまった。
だけど初めて出会った頃のように、失態した気にはならない。
これくらいのことで怒るような人じゃないことは、わかってるから。
「褒め言葉として受け取ってやろう」
案の定、余裕のある笑みでさらりと受け流された。