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科学班の恋【D.Gray-man】

第84章 オレの好きなひと。《ラビED》



「…じゃあ、もう捨てないでよ」



オレの胸に顔を埋めるようにして、南の抱擁が深くなる。



「私が誰を見ているのか、もうわかるでしょ」



一つ一つ、オレの心に空いていた穴を埋めていくかのように。



「ラビでしか満たせないんだから。駄目なんかじゃない」



南の言葉が、心地良く染み込んでいく。



「それに…ラビだけだったんだよ?」



何がさ?

不思議に思って少しだけ顔を離せば、同じに見上げてくる南の顔が視界に映り込む。
疑問は目で伝わったのか、南はほんの少し照れたように微笑んだ。



「私のこと、ずっと女として扱ってくれたひと」

「……そう、なんさ…?」



実感がまるでない。
確かに科学班の連中は、南のことを女扱いしない奴ばっかだったけどさ。
南もそれを当然のように受け入れていたはずだから、その言葉は意外だった。



「それを言うならアレンだって、そうだろ?」

「アレンはね、皆に紳士的だから。私だけにじゃないよ」



あー…それは確かに。



「憶えてる?ラビが昔、私に牡丹の髪飾りをくれた時のこと」

「ああ、それなら…」



偶々任務先の出店で見つけた、和柄のアクセサリー類。
日本人である南のことをなんとなく思い出して、気付けば一つ手に取っていた。
科学班ではロクに髪飾りもせず髪を縛ってる南だから、偶にはそういうもん付けてもいいんじゃないかって。
そういうもんを付ければ、周りも女扱いするんじゃないかって。

…今思えば、あの時から南への想いの欠片は見えていたのかもしれない。
何かと南を雑に扱う科学班の連中に、良い思いをしていなかったオレがいたのは確かだ。



「私、男の人にあんなプレゼント貰ったの、初めてだったから。あの時は軽いお礼しか言わなかったけど…本当は、凄く嬉しかったんだよ」



思いを馳せるように、夕陽で艶めく世界を背景に呟く南に、目が離せなくなった。
化粧は雨で崩れて、さっきまでの華やかさはまるでない。
なのにその視線一つが、微笑み一つが、オレの胸を鷲掴んで離さない。

周りの景色よりもずっと、綺麗だと思った。
それと同時に入り交じるのは、形容し難い感情。

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