第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
そこに、特別な感情があったから。
だからいつも以上にオレの目を惹き付けて止まなかったんだ。
「沢山、待たせてごめんね…もしまだラビの気持ちがここにあるなら───」
その先の言葉は続かなかった。
握られていた手を引き寄せて、オレが抱きしめたから。
雨で冷えた南の体が、簡単に腕の中に収まる。
ずぶ濡れの今は正直心地良いもんじゃなかったけど、そんなことどうでもよかった。
「オレも南が好きだ」
一刻も早く、この想いを告げたくて。
この想いを形にしたくて。
夢なら覚める前に。
「だから南も、オレのもんになって」
もう待ってなくていいんだな。
なら手放さないからな。
諦めてなんか、やらねぇからな。
「…うん」
懇願した想いに、耳元で返されたのは酷く優しい音だった。
背中に回された小さな手が、抱きしめ返してくる。
それが実態を持つ答えのようで、オレの全てを受け入れて貰えてるようで。
言いようのない想いがこみ上げた。
「…ずっと、好きだったんさ…ずっと、南のこと見てた」
「うん」
「だから、南が誰を見てるかもわかってた。オレじゃ駄目なことも、わかってた」
「…うん」
長年傍にいたリーバーの存在や、ブックマンとしてのオレの立場。
南との間には幾つも壁があって、だから最初から壊すことは諦めていた。
人間に呆れて世界を諦めていた、餓鬼の頃のオレみたいに。
でも、そこに亀裂を入れるきっかけを作ったのは、不覚にも餓鬼臭いオレの心で。
生まれた亀裂の隙間から呼び掛けたのは、意外にも南からだった。
幾つも重なり合ったそれは、本当に些細な偶然だ。
その一つでも欠けていたら、きっと此処にオレ達はいない。
「何度も捨てようとしたんさ。でも、捨てられなくて」
…捨てたく、なくて。
こんなにも赤の他人を欲した想いは、きっと初めてだった。