第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
…?
今、なんつった?
ザアザアと響く雨音の中で、目の前の南の声だけを拾った自分の耳を疑う。
見下ろした南の顔は、少し緊張気味に強張っていた。
それでも目を逸らさず真っ直ぐに見てくるところは、いつもの南のままだ。
そんな南から、普通は聞かないはずの言葉を耳にした。
…すき?
スキ?
好き?
「あ。」
「っ?」
唐突に自分の中で答えが出た。
ポンと手を叩いて納得する。
オレの反応にビクつく南に、笑顔を向けて頷いた。
「オレも南が好きだ」
そうだ、今は恋人デート中だった。
近過ぎる距離も、触れ合う肌も、愛の言葉も、当然に向けられるもんだ。
「両想いさな」
例えそれが今日限定だったとしても、向けられる好意に胸の内が甘酸っぱいもんで広がる。
成り行きで提案したものだったけど、思いの外満たされる自分がいた。
今日一日は、オレだけの南なんだ。
だけど笑顔のオレを見た南の反応は…なんさそれ。
むすりと拗ねたような、納得のいかない顔をした。
「なんさ、膨れっ面して」
「…私は、ラビが、好きなの…男の、人として」
拗ねた口で、ほんのり赤い頬で、一言一言念を押すように伝えてくる。
…なんさそれ可愛いだけだから。
あんまりそんな仕草すんなよ、帰したくなくなるだろ。
「オレも女として南のこと見てるさ」
てか、そんなことずっと前からわかってるだろ?
いまいち南の不機嫌さがわからなくて、でもちゃんと伝わってるって意思表示で言葉にすれば…オイだからなんさその顔。
なんで益々眉間に皺寄せるんだよ。
ユウみたいな仏頂面になるぞ。
「………」
「南?」
黙り込む南に、一抹の不安が生まれる。
雨で濡れてしまった手を握ろうとすれば、するりと細い手がオレの指の隙間から抜けた。
バシャッ
「南っ!?」
雨水が跳ねる。
不意に傘の下から、南が飛び出したからだ。
オレの手は空を掴んだだけで、ひらりと南の体は雨の世界に舞った。